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ゲーム音楽と歩んだ25年 〜下村陽子ロングインタビュー〜

その6:はるかちゃんに歌ってもらいたい!


─ 続いては、『ラジアントヒストリア』(以下、『ラジヒス』)に関する質問をお聞きします。

25thQA 『ラジヒス』のラスボス曲が曲名、曲共に大好き!です。重厚かつ切ない曲が「あの」ラスボス戦にぴったりだと思うのですが、やはりラスボスとなるキャラのことをイメージして創られたのでしょうか? 公式サイトのインタビューで「歴史を変える切なさを表現したかった」とおっしゃっていましたが、あの曲を創られたときのエピソードや、あの曲で表現しようとしたことがあればぜひ教えて頂きたいです。

─ 『ラジヒス』は、はじめてのアトラスさんとのお仕事でしたね。

下村 そうですね。『ラジヒス』の音楽はとても自由に作らせてもらいました。最初、アトラスの方に聞いていただくデモ曲を作った時は、スケッチのような短い曲だったんです。OKだったら長い尺を作ってループさせます、という感じで。……で、OKをいただいた後に私、かなり尺を足したんですけど、曲が完成した後にアトラスの方から「下村さん、容量が足らないです!」って言われてしまって。

─ ええっ!

下村 「曲を全部半分の長さにできませんか」的なお話もあったんですけど、それはさすがに難しくて……。結局、ROMの容量を増やすことになったので、無事全部の音楽を乗せていただくことができました。

─ そうだったんですね。良かったです!

下村 あと、ご質問にあったラスボス曲についてですけど、私の中で「こういうイメージにしよう」って思ったことがあるんです。サントラをお持ちの方はご存知かと思うんですけど、『ラジヒス』のバトル曲はそれぞれ色の名前をつけたんですね。でも、ラスボスだけ、色がないんですよ。「Grey」。白黒なんですよ。

─ !。たしかにそうですね。

下村 私の勝手な想像なんですけど、“色がある”ということは、すごくリアルな存在感なんです。“色がない”ということで、存在するものと、無と……なくなってしまうその狭間みたいなものをイメージしたんですよ。どんなにいい歴史に変わったとしても、やっぱり歴史が変わるってことは、何かがなくなってしまうんですよ。いいことばっかりじゃない。良い歴史になったことで、失ってしまうものもある。そういう悲しさを表現したいなと思いました。

─ なるほど……そういった意味があったんですね。『ラジヒス』に関してはもうひとつ質問が来てますので、お聞きします。

25thQA 霜月はるかさんとの『ラジヒス』制作秘話などもあれば聞いてみたいです。

─ 『ラジヒス』では、霜月さんが主題歌を歌っていましたね。

下村 はい。それまでって私、誰かに歌を歌ってもらうって時は、お膳立てしていただく方というか、制作をするプロダクションマネージャーさんがいまして。その人に「こういう歌を、こういう人に歌ってもらいたいんです」という要望を出せば、歌い手さんをアテンドしてもらえるって形だったんです。でも『ラジヒス』の時は、私がはるかちゃんに直接、「どうしても私、はるかちゃんに歌ってほしい曲があるんだけど、歌ってもらえないかな?」ってメールを出したんですよ。

─ そうだったんですか! 直接霜月さんにメールを。

下村 はい。「いいっすよー!」「まじで!?」って、すごく軽いノリで(笑)。誰かに「歌ってください!」と自分で交渉したのはこれが初めてでした。アトラスさんのほうからは、歌っていうオーダーはなかったんですけど、「エンディングにしっとりした歌が流れるのはどうだろう」って思って。私のほうからアトラスさんに提案したんです。「いい感じの曲ができるなら、全然OKですよ」と言っていただいたので、「じゃあ全部私が自分でやろう」と思って。はじめてスタジオを自分で押さえて、レコーディングしました。

それまでは私、「これをやりたい、あれをやりたい」と言って、「でもそれは予算的に無理です」って言われる立場だったわけなんですけど。でも『ラジヒス』の主題歌は、「ヴァイオリンの方だったらこの人に頼めるな」とか、予算を振り分けて……はじめてそういう形で音を録りました。思い出深いですね。もちろん、作曲家の方は皆そういうことは普通にされてるでしょうけどね。

─ レコーディングはスムーズに進んだんですか?

下村 いえ、なかなか時間配分がうまくいかなくて……予定した時間でぜんぜん録りきれませんでしたね。その時はアコギとヴァイオリンと、はるかちゃんの歌を録ったんですよ。本当だったら晩御飯くらいの時間には終わる予定だったんですけど、夜中になっちゃって。……せっかくはるかちゃんが来てくれたから、晩御飯がてら飲みに行ったんですけど、そこで私ぐぅぐぅ寝ちゃって(笑)。

─ お疲れだったんですね(笑)。

下村 いや〜、スゴイ失礼ですよね。それ以来、はるかちゃんを飲みに誘う時は「今度は寝ないから飲みに行こう!」って誘い方をするようになりました(笑)。

─ 霜月さんとは、プライベートでも仲良くされてるんですか?

下村 そうですね、彼女も忙しいのでしょっちゅうは会えないですけどね。飲み会とかで会ったり、ライブに呼んでもらったりして。仲良くさせてもらってますよ。

─ 下村さんの最新作、『ファイナルファンタジーXV』(以下、『FFXV』)についての質問も来てますよ。

25thQA 下村さんにとって『FFXV』が初めてナンバリングFFのコンポーザーを担当されるという事で、何か心掛けや意気込みなどありますか。些細な事でも全然大丈夫です。

下村 『FFXV』って元々は『FFVersusXIII』としてスタートしましたけど、最初から『FFXV』だったら、プレッシャーがすごすぎて「いや〜、ちょっと私、無理っす!!」ってなってたかもしれませんね(笑)。ただ、ナンバリングのFF作品を担当させていただくというのはすごいことなんでしょうけど、特別ナンバリングだからどうとかっていう気持ちは実はあんまりないんですよね。

─ あまり変なプレッシャーはない、ということでしょうか?

下村 はい。作っている曲は方向性を変えていないですし、私としては、同じ作品に同じように曲をつけてるだけの話なので。『FFXV』になったのは、結果としてそうなっただけって感じなんですよね、私の中では。たぶん、考えると逆に委縮しちゃって、大変なことになっちゃいます。「また下村から曲が上がってこない!」とか言われちゃうかもしれない(笑)。

─ (笑)。楽しみにしています! 『FFXV』関係では、もうひとつ質問が来てますね。

25thQA 以前リリースされた下村さんのアルバム 「drammatica」 に、ボーナストラックとして『FFVersusXIII』(現『FFXV』) のトレーラーに使われている 「Somnus」 が収録されていますが、これはどういった意図で収録したのでしょうか。非常に気になります。

下村 これはそんなに深い意図はないんです。スクウェアとスクエニさん時代の下村陽子ベストを作るということで、最新作まで網羅しよう、という話になったんですね。その時点では 「Somnus」 はまだどのサントラにも入ってなかったので、せっかくだから収録したいなと思って。入れさせていただきました。


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