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ゲーム音楽と歩んだ25年 〜下村陽子ロングインタビュー〜

インタビュアー&ライター hide(永芳 英敬) Twitter(@hide_gm




その1:『ドラクエIV』の思い出


─ 下村さん、作曲家生活25周年ということで、おめでとうございます!

下村 ありがとうございます! いや〜、歳をとってしまいましたね(笑)。

─ いえいえ、そんな。さて今回は、ファンの皆さんから下村さんへの質問がたくさん来ていますので、そちらをお聞きしながら、下村さんの25年間の活動を振り返っていきたいと思います。よろしくお願いします。

下村 こちらこそ、よろしくお願いします。

─ まずは、下村さんのゲームの思い出からお聞きしていきたいと思います。
ツイッターでこういう質問が来てますよ。

※取材前にTwitterでの「#下村陽子25thQA」というハッシュタグと
2083WEBのお問い合わせフォームにてファンの方々から質問をいただきました。
改めまして多数のご質問をお寄せいただき誠にありがとうございます。

25thQA 自作曲以外で好きなゲーム曲を3つ挙げてください!

下村 好きなゲームの曲ですか。私がまず絶対に挙げるのは、『ドラゴンクエストIII』(以下『ドラクエIII』)のラーミアの曲ですね。

─ 「おおぞらをとぶ」ですね。

下村 はい。これは本当に衝撃を受けた曲で。『ドラクエIII』が初出で、たしか『ドラクエVIII』でも出てきましたよね。も〜、『ドラクエVIII』でこれが出てきた時に泣きそうになったんですよ。「この曲くるか〜!!」みたいな。

─ わかります。あれはずるいですよね!

下村 ほんと、ずるいですよ! なんともいえない切ない感じが大好きな曲ですね。ファミコン版だと音数も少なくて、チープな音に思われがちかもしれませんですけど、いい曲はそういうのと関係なくいいんだよなぁって思いました。

─ ファミコンの音で、あれだけ感情を揺さぶられるのってすごいですよね。

下村 ほんと。恐れ入りましたって感じです。『ドラクエIII』が出た当時って、まだ私はいちユーザーだったんですよ。大学の友達に、『ドラクエIII』やってる子がいたんですけど、その子と電話で情報交換してました。ピラミッドの所で詰まって電話をかけたんですけど、「そんなところまで行ってないよ!」って言われたりして(笑)。

次の『ドラクエIV』が出た時には、私はもう働いてたんですけど。当時の会社の人たちと、みんなで「阪急百貨店に徹夜で並んで『ドラクエIV』を買いに行こう!」って約束したんです。でも私は当時実家暮らしで。特にお嬢さんというわけでもなかったんですけど、両親がわりと堅くて……「そんな夜中から大阪の梅田まで行って、男性社員と共に徹夜するなんてダメ!!」と、止められちゃったんです。

─ あらら……!

下村 当時はそれこそ携帯なんてものはなかったので、社員名簿を見て先輩の家に電話をかけて。「すいません、両親に怒られたので行けません……!」って、涙ながらに電話してました。

この話には続きがあってですね。次の日、朝7時にその先輩から電話がかかってきたんです。私、当時は会社の人から“ぴぃ”って呼ばれてたんですけど、「おい、ぴぃ。これから大阪来れるか?」って聞かれて。「朝の時間だから普通に出かけられます」って先輩に伝えたら、「待ってるから来い」って言われて。じゃあ今から行きます、ということになったんです。

阪急百貨店のおもちゃ売り場では、6時くらいから『ドラクエIV』の整理券を配り始めてたらしいんですけど。先輩は、自分の整理券をもらった後にもう1回列に並んで、私のぶんの整理券まで取ってくれてたんですよ!!

─ わー! よかったですね。

下村 早くに整理券を手に入れた人は、そのあと7時からソフトと引き換えができるんです。でも私のぶんの整理券は、12時とか13時くらいの、お昼以降じゃないと引き換えできないものだったんですよ。先輩はソフトと引き替えたら、早く遊びたいから、当然早く帰りたいわけじゃないですか。

─ そうですよね。

下村 だから、先輩からは「今すぐ来てほしい。整理券を渡すから、ぴぃは3時間くらい梅田で時間をつぶすといい」と言われて。で、実際取りに行ったんですけど。私は1枚しか整理券が必要ないのに、先輩は「2人で並び直したから2枚あるよ」って言って、2枚とも私にくれたんです。

で、お昼になったから、整理券を2枚持ってソフトを受け取りに行ったんですけど。そこに、おじいちゃんがお孫さんのためにソフトを買いに来られてたんですね。「すいません、朝の時間で全部整理券が出ちゃったんです」「もう買えないんですか!」「申し訳ありません、再入荷をお待ちください」っていう、店員さんとおじいちゃんのやりとりを見たんですね。すごくおじいちゃんがしょんぼりしていて……そこですかさず私が、「1枚あるんであげます!」って。そしたらすっごい喜ばれて!!

─ おお! 下村さんやさしいです!

下村 私がもらった券じゃないですけどね(笑)。もういないけど、感謝はあの先輩にしてください!みたいな。そんな思い出がありますね〜。いやあ、『ドラクエIV』ってほんとに大人気で買えなかったんです。

─ あの頃は、まだネット通販も無い時代でしたもんね。

下村 そうなんです。ネットも携帯も無かったですもんね。今は携帯があるから、簡単に本人と連絡がとれるじゃないですか。でもね、家電話では相手の親御さんが出る時もあって……あの気まずさったら!もう!(笑)

─ ほんとですよね(笑)。


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