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今、最もアツイ!ゲーム音楽作曲家 坂本英城氏に迫る

その4:ノイジークロークレコーズ/効果音制作秘話


斉藤 自社レーベルである、
ノイジークロークレコーズを立ち上げられましたね。
立ち上げの経緯をお聞かせ願えますか。

川越 レーベルとしての機能が会社にあったらいいのではないかという思いは
以前からずっとあったのですが、
ちょうど『無限回廊 光と影の箱』のサウンドトラックを
制作できるというタイミングもあって、レーベル立ち上げを行いました。
CD1枚をつくるといっても、何から始めていいか分からない
状態だったのですが、皆さんのお力添えでなんとか実現できました。

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坂本 何も分からなかったので、
まずはレーベルの方やジャケットのデザイナーさんだとか、
色々な方に飲みの約束を取り付けて
飲みながら「どうするんですか、どうするんですか」と聞きました(笑)
急いでJANコードの取得をしたりですとか。

川越 やらなきゃいけないことがたくさんあるんですよね。
CDを出すのって。

坂本 今はゲームのサウンドトラックって、とても出づらい状況なんですよ。
大作RPGや、関わっている作曲家が有名な方だとかならいいのですが、
そうじゃなかったら・・・ね。それが非常に残念で。

どんなにいい曲を書いても、どんなに凝ったアレンジをしても、
CDを出せるかどうかはゲームの売上によってしまいます。
ゲームが1000枚しか売れなかったら、CDを出しましょうなんて
話には当然ならないですからね。

そこは関係なく、ゲームが売れようが売れまいが、
我々がこだわりぬいて作った作品として出せるチャンネルが欲しいなと思って
自社レーベルを立ち上げました。
サウンドだけ聞きたいという方は絶対いらっしゃると思いますので。

あとは、弊社のファンを増やすという意味もありますね。
我々のような小さな音楽制作会社は
会社そのもののブランディングというものが非常に重要なんです。
「ノイジークロークだから買う」と言ってくださる方が
ひとりでも多くなってもらえるといいなと思いますね。

川越 CDとして流通することで、普段ゲームをあんまりやらない方の
目にもとまる機会があるかもしれないと考えています。
またこれから先、音楽配信もできるように
環境を整えていきたいと思っていますが、
たとえばiTunesで販売できるようなことがあれば、
普段はゲーム音楽に興味がない方でも目にしていただける、
耳にしていただける機会が増えるのではないかなと思います。
そうなると、もし気に入っていただいた際に、
ひいてはゲームそのものに興味を持ってもらえるような。
そういういい循環の中に入っていきたいですね。

永芳 音楽からゲームに興味を持ってもらう、というのも充分ありですよね。

川越 そうですね。
他のメーカーさんやデベロッパーさんだと
そこまでの施策はなかなかできないかもしれませんし、
私たちにできることをやって、ゲーム音楽というものを
少しでも盛り上げていければなと考えています。

坂本 実際、私のオーケストラ作品集を聞いて、
『勇者のくせになまいきだ:3D』を知っていたけれど
『無限回廊』を知らなかったという方が、ゲームを買ってくれたという
ケースもあるようなので、非常にうれしいですね。
今後もなるべくCDは出していきたいです。

川越 ノイジークロークとしては、CDのほかに、もし欲しい方がいればなんですが
オリジナルグッズも今後販売していきたいですね。
僕がいま一番考えているのが、「ヒデキのヒゲ」というものです(笑)

坂本 僕が考えているのは、社員全員の顔写真の入ったトランプですね。
誰が買うの?っていうものですけど(笑)
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川越 やっぱり作曲した人間がいてこそ、ゲームに音楽が入っているわけですが、
実のところサウンドトラックのクレジットに音楽を担当した人間の
名前が入ることも、意外とむずかしいことなんですよね。

永芳 そうですね。
サントラによっては、作曲者の名前が出ていないものもありますからね。

坂本 そうなんですよね。

永芳 ファン側としてはやはり、自分が気に入った音楽の作曲家さんは
誰なのかは知りたいと思いますから、
そうやって名前を出してもらえるのはうれしいですね。

川越 そうですね。
CDもグッズも、ノイジークロークらしい企画を今後もやっていきたいです。
オーケストラ作品集では、ツイッターで特定のワードをつぶやいてもらった方の
アカウントをライナーノーツに掲載させていただきましたが、
ああいった感じのものを。

坂本 「ヒデキも僕もor私もカンゲキ!」というワードですね。
ああいう企画は、せっかくソーシャルメディアの発達した時代なので、
ファンの方々と一緒に密になってやっていけたらと思いますね。



斉藤 ノイジークロークさんは効果音制作事業もされていますね。
作曲と、効果音の制作というのは分業なんですか?

坂本 今は分かれていますね。
以前は社員全員が両方やっていた時期もありましたが。

斉藤 個人的に、作曲はなんとなく作業のイメージが湧くんですが、
効果音はどのようにして作られるのかが分からないんですよ。
どのようにして作られているのかお聞きしてみたいですね。

湯川 ケースバイケースですね。
録音したものを使うときもあれば、素材集を使うものもあれば、
シンセサイザーで作る場合もあります。
あと、ゲームが完成するギリギリまで調整していることも多いですね。

坂本 効果音はほんと、最後の最後までやってるんですよ。

湯川 ゲームでの動きがちょっとでも変わると、
その動きに合わせた音にしないと変になっちゃいますからね。
新しくいただいたROMを見ると、キャラクターの動きが全然変わっていて
「あれー?」と言いながら手直ししたり(苦笑)

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坂本 うちはゲームサウンド専門とうたってやっている会社ですが、
仕事としてはけっこう効果音の部分も多いですね。
データの調整を全てプログラマーと直接やりとりできるという点も
ゲームサウンド制作を専門にしている強みです。
ゲーム中に入れられるサウンドの容量は限られているので、
いかに効率的に効果音を仕込んで行くかっていうことが大事なんですね。

たとえばピストルの「バーン」という音と
マシンガンの「ガガガガガガ」という2種類の音を作るとしても、
それを別ファイルで持つと容量が2倍になってしまいます。
でも、ピストルの音のピッチの値を少しだけランダムに変化させて、
それを連打するというような仕組みを作れば、
マシンガンの音を別に持つ必要がなくなり、
元のデータはひとつで済みます。
そういう工夫ができるのはうちの会社のウリですね。

湯川 いかに容量を少なく作れるか、です。

永芳 できるだけ少ない容量で高いクオリティの音を、ということですね。

湯川 そうですね。
例えば爆発の音も、「どかーーーーん」という音をまるまる持つと
すごく長くなってしまうので、真ん中の部分をループするデータとして組んで
データを節約したりしますね。

坂本 今のはデータの持ち方の話ですが、
ビジュアルとの連携も大事ですね。
ブルー系のビジュアルであれば寒色の音を。
レッド系には暖色の音を当てます。

また、ボタンを押した時の音の連動や、気持ち良さも意識しています。

湯川 効果音を作っていて悲しいのは、ユーザーさんからすると
「気持ちいいことが当たり前」なんですよね。
不自然さを感じさせちゃうとダメ、という。

坂本 そう。効果音の制作者はみんなして言う話なんですけど、
絶対に褒められないんですよね。
何かを言われるときは、文句を言われるときだけなんです。

川越 そういう苦労は多いですね。例えば音階のある効果音ですと、
曲の調と合っていないと違和感が生じたりするので
作曲家とも連携を取って作っていく必要があるんです。
大変ですけど、面白いところですね。

坂本 効果音のデータ管理のやり方で言うと、
たとえばフィールドを歩いている時の風の音を設定します。
次に鳥が鳴く効果音を入れるという時に、
風の音が止まったらおかしいですよね。
なので別のトラックにアサインします。
そういった形で、音のリストを見ながらデータを組んで行くんですが
それが実におもしろいんですね。
「世界に生命と息吹を与えている」という感じがします。

湯川 効果音なしのゲームなんて、ホントつまらないですからね。

坂本 よくゲーム制作者の方には、音がつくと
「うわー! 出来た感じがしてきたー!!」と言ってもらえますね。
キャラクターに足音がついただけで、キャラクターモデルの制作者も
「なんだか命が宿った気がしてきた」と言ってくれたり。

湯川 あと環境音だとかもそうですね。
それが入っただけで、世界観がぐっと表現されると言いますか。

坂本 たとえばロボットだと、その足音が「ジャリッ、ジャリッ」なのか
「ドスン、ドスン」なのかで重さが表現できるんですよ。
音でしか表現できないものというのはあって。そこはすごく打合せをしますね。
このロボは何トンですかとか。体長何メートルですかとか。
それをグラフィックで表現するのは大変ですが、
音を使えば一瞬で表現できるわけです。
そのへんのやりとりはとても楽しいですね。

湯川 ・・・でも、褒められないんです(苦笑)


永芳 縁の下の力持ち的な役割なんですね。

湯川 そうなんです。


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