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今、最もアツイ!ゲーム音楽作曲家 坂本英城氏に迫る

Article written by 永芳 英敬
Twitter:@hide_gm / Blog:GAMEMUSIC GARDEN




その1:「音楽」で勝負したかったロシアコンサート


斉藤 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。

今回、4starオーケストラで演奏する
『勇者のくせになまいきだ:3D』のオーケストラ編曲ですが、
今年3月にロシアにて初演されました。
どういった経緯で開催することになったのでしょうか。

坂本 今回この企画を担当していただいた、ロシアの「エルミタージュ音楽財団」の
エグゼクティブディレクターである藤野栄介さんという方にお会いした際に
『無限回廊』のCDをお渡ししたところ、とても気に入っていただいて。
ぜひコンサートで演奏しましょうというお話になりました。

斉藤 曲目はどういった基準で選ばれたのですか?

坂本 まず『無限回廊』は、藤野さんにお気に召していただいたので
是非やろうと思いました。
それ以外で候補に上がっていたのは、『100万トンのバラバラ』(PSP)と
『勇者のくせになまいきだ:3D』でしたが、
オーケストラに合う曲調や知名度を考え
最終的には『無限回廊』、『勇者のくせになまいきだ:3D』になりました。

最初はとても欲張っていて、『勇者のくせになまいきだ:3D』全曲、
『無限回廊』全曲、さらに
『無限回廊 光と影の箱』までやろうとしていたのですが、
演奏時間がとんでもなく長くなってしまい、
これではお客さんが途中で帰ってしまうと思ったので(笑)、カットしました。

『勇者のくせになまいきだ:3D』については、ゲームをプレイされた方が
よく聴くものと、あまり聴けないものに分けてチョイスしました。
よく聴くものというのは、ワールドマップの曲やダンジョンの曲ですね。

あまり聴けないものというのは、エンディングの曲です。
ゲームの難易度が高いため、
聴いたことがないというプレイヤーもいらっしゃるかもしれませんが、
特に力を入れて作っているので、
これはぜひ聴いてほしいなと思い、選びました。

斉藤 準備のほうはいかがでしたか。

坂本 当然他の仕事もあり、
コンサートの準備だけをやっているわけでもありませんので、
熾烈を極めましたね。
ようやく譜面の準備ができる段取りがついたのが3月1日で、
そこから僕と、うちのスタッフのいとう君の2人で編曲し、
譜面のまとめを川越君が行うという3人体制でやっていました。
1日外しても間に合わないという厳しいスケジュールでしたね。

・・・でもそんな中、3月11日に東日本大震災が起きてしまって。
さすがにその日は、自宅でテレビを見ながらぽかーんとしてしまいましたね。

なかなか作業をする気持ちになれなかったんですが、
震災から3日目の日に、こんなことではいけないと思い立ち直りました。
でも、今度は計画停電が始まりますと聞いて、
電気が使えないと仕事ができなくなってしまうなと。
せっかくいい譜面を書いても、パソコンが落ちたら・・・などと
思ってしまうとまたモチベーションが下がってしまいましたが、
何とか実質17曲ぶんのオーケストラの譜面を2週間で書き上げました。

斉藤 『無限回廊』の編曲は、坂本さんご自身が改めてされていますね。
原曲である弦カルテットをオーケストラに編曲するのは、
もともとの曲が形としてできあがってるわけですので
むずかしい部分もあったのではと思いますが。

坂本 そうですね。今回は原曲とあまり変わりすぎないように気をつけました。
アレンジを大きく変えてゲームとは違う楽しみ方を、
という考えもあったのですが、
基本的にはなるべく原曲に忠実なアレンジをしています。

『無限回廊』は、エッシャーのだまし絵からインスピレーションを受けた
原作者の藤木淳さんが、これをプログラムを使って実現できないか
という発想から生まれたゲームなんですね。
そして、エッシャーがバッハを好きだったんですよ。
そういう絡みで、ちょっと古めのクラシックの要素を音楽に取り入れていました。
なので、あまりそれを根底から壊してしまうアレンジよりも、
そのまま音楽がゴージャスになったら、という気持ちで編曲しましたね。

斉藤 コンサートでは、現地へ赴いて指揮も振られましたね。

坂本 はい。状況が状況ですから、ロシアに行くかギリギリまで悩んでいました。
こんな大変なときに、2週間も会社を空けていいのかなと。
でも、せっかくここまで準備したのだから是非やりましょうと
後押ししてくれた方も多くて、現地へ行く決意をしました。

斉藤 現地での反響はいかがでしたか。

坂本 ロシアでは、ゲーム音楽を演奏すること自体が珍しかったのですが、
そこに震災の中、日本からやってきたということで非常に注目をされました。
現地の方から取材をしていただいたり、
『無限回廊』に関しては、
弦楽四部での再演のお話をいただいたりしましたね。
そういう波及効果があったので、
結果的には開催して本当によかったなと思います。

斉藤 オーケストラの演奏を収録したCDも制作されましたね。
CDは、はじめから制作する予定だったのでしょうか。

坂本 はい。ロシアへ行く前からレコーディングの予定も組んでいました。
コンサートが先かレコーディングが先かを考えたのですが、
なにしろ初めての曲が17曲でしたから、
後に形として残るもののクオリティを優先して、
コンサートの次の日から3日間をレコーディング期間にしました。

斉藤 ライブ録音でCDを発売するケースも多いと思うのですが、
改めて録音し直すというのはこだわりを感じます。
CDのジャケットにはご自身の顔を出されていますね。

坂本英城オーケストラ作品集
坂本英城オーケストラ作品集

坂本 ええ。これは非常に変な方向に評判を呼びましたね。
このジャケットを褒めていただいたのは、
佐野電磁さんとうちの両親だけでした(笑)
ほかの人は、違う意味で「よくやったな・・・」と言ってくれましたね。
ただ、ゲーム音楽の作曲家ももっと顔を出していくべきだと考えています。
ゲーム音楽の作曲家が顔を出してCDを出してるのって、
ほとんどないじゃないですか。
すぎやまこういち先生と光田康典さんくらいで。

永芳 ツイッターではCDをたくさん身体の上に乗せて「女体盛り」をされていましたね。
あと冷蔵庫にたくさん貯蔵されていたり・・・
あの写真を見たとき、坂本さんどうしちゃったのかな、と正直思いました(笑)

坂本 はい(笑) ・・・なんでこんなことをしたかと言うと、
CDの発売日当日になって、
CD発売日だからこそできるPRがまた残っているということに
気づいたんですよ。
それで、今日1日で出来ることを何かやろうと思いまして。
社員みんなで集まって考えた結果、ああいうバカ騒ぎになりました。(笑)

永芳 あれはプロモーションの一環だったんですね。

坂本 そうです。これをたくさんリツイートしていただくことで
話題が広がればいいなと思ってやりました。
あれで買ってくれた方も何人かいたようですね。
あれだけ見るとバカだと思われるかもしれませんけど、
ちゃんと仕事はしていますからね。
注目していただけるような仕掛けづくり、ということです。
それは常に意識してやっていますね。
・・・と、うまいこと真面目にまとめました(笑)

川越 すごい着地点だなーと思いました(笑)

斉藤 ゲーム音楽の演奏をするうえでは、
ゲームありきのものとゲームと音楽を切り離したものがあると思いますが、
今回のロシアコンサートはどちらかというと後者で、
すごく切り離されているなという印象を持ちました。
そういった考えは意識されていましたか?

坂本 ありますね、すごく。

僕はこれまで長年ゲーム音楽の作曲をやってきましたが、
純粋に自分の音楽だけで勝負してみたいと思ったんです。
僕が作った音楽を海外に持って行って、
普段あまりゲームをプレイしないかもしれない観客の前で演奏して、
どういう評価を受けるのかというのは僕自身が一番楽しみにしていました。
ですので、再演のお話をいただいたのはとても嬉しかったですね。

斉藤 攻めの姿勢ですね。

坂本 はい。攻めです。
そこはもう、採算とかそういう世界ではないですね。

斉藤 仕事よりもアーティスト的なスタンスですか?

坂本 もちろん仕事もちゃんとやるべきです。
今回はアーティスト寄りのスタンスだったかもしれません。

川越 コンサートの企画当初は、ステージの後ろにゲームの映像を
流そうかという話もあったんです。
でも、そこは音楽だけの力で勝負しよう、ということになりました。

坂本 そうですね。

斉藤 そのあたりは、どちらがいい悪いというものではなく、
主催者の考え次第だと思いますね。
僕も2083WEBを運営していると、様々な演奏会の感想や要望を
耳にするのですが、「ゲームの映像を見ながら聴きたい」という声もあれば
「純粋に音楽に集中したい」という声もあって、一概には言えないんですね。
ただ僕個人としては、音楽単体で勝負というのはとても好きです。
4starオーケストラに関しても、音楽を一番前に出していきたいと思っています。

坂本 そうですね。
ゲームのイベントで演奏するのも、
純粋な音楽としてゲーム音楽を演奏するのも、
両方あっていいと思いますね。


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