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今、最もアツイ!ゲーム音楽作曲家 坂本英城氏に迫る

その2:ギネス世界記録認定!
世界で一番長いゲーム用書下ろし楽曲で


斉藤 『無限回廊 光と影の箱』で、
75分07秒という世界で一番長いゲーム用書下ろし楽曲の
作曲者としてギネス世界記録に認定されました。
ギネスに挑戦しようと思い立ったのは坂本さんご自身ですか?

坂本 いえ、鈴木達也さんというソニー・コンピュータエンタテインメントの
プロデューサーからお話をいただきまして、挑戦してみようと思いました。
彼はホントにもう、ドSなプロデューサーで(笑)
前作『無限回廊』の時は、音楽をランダムで十数曲を流すという
オーダーだったのですが、あの真っ白な世界に線でできたキャラクターが
動いているという世界観に合わせて曲を作るというのは、
作る側からするととても難しいオファーでしたね。
町のシーンですとか、敵と戦うシーンですとか、
何かしらのテーマがあるなら曲の発想もすぐに湧くのですが・・・。

しかも弦楽四重奏ということで、音色で個性を出すわけにもいかず、
作曲力が試されましたね。
テンポが早い曲ができたら遅い曲を作る、メジャーキーの曲ができたら
マイナーキーの曲を作る、というように、対になるようなものを集めて
音楽を作っていきました。
『無限回廊』の打ち上げのときには、鈴木さんに対して
「もう勘弁してくださいよー」と言ったのを覚えています(笑)

斉藤 そして『無限回廊 光と影の箱』につながるんですね。

坂本 はい。・・・打ち上げのときに、「もっと困らせてやれ!」と
鈴木さんが思ったらしくて(苦笑)
今回の『無限回廊 光と影の箱』のお話をいただいたときに、
「坂本さん、ギネス狙ってみませんか」と言われたんですよ。
ギネスって言葉はキャッチーじゃないですか。
なので「いいですね!」と2つ返事で言ったんですよ。
詳しくお話を聞いてみると、「1曲ですごく長いものにしよう。
CDにこれ以上入らないくらいの長さにしよう」ということで。
75分07秒という長さをあらかじめ決めたうえで
曲を作ることになりました。

無限回廊 光と影の箱 a Soundtrack
無限回廊 光と影の箱 a Soundtrack

川越 最初、75分の曲をシーケンサーに入力することができるのか?
というところから検証を始めましたね。

坂本 そうですね。
まずは、その設定から始めました(笑)
時間が長く、作るのはとても大変でしたが、ちゃんと全て譜面に起こして、
弦楽を編んで行くように作りました。

曲のテーマとしては、「分数=年齢」と見立てて、
人間の誕生から入学、就職、結婚・・・といった人生観を描いています。
曲の最初と最後の部分は、
繰り返し再生した時につながるような作りとなっているのですが、
それは晩年に子供の頃のような感覚に戻っていくことを表しています。
最初に戻る時には違和感がないように、終わり部分はテンポもキーも
最初と同じものになっていますね。

斉藤 いろんな曲が入っているメドレーというわけではないんですよね。

坂本 ええ。これは簡単に誰でも作れるんじゃないか、
コピー&ペーストのところがあるのではと思われるかもしれませんが、
しっかり全部75分作っています。
きちんとゲームに実装されている曲で75分あるんですけど、
まず、そんなに長い曲を収められるゲーム自体がなかなかないと思うので
貴重な経験でしたね。

斉藤 楽曲を審査するギネス側も、
まさかゲーム音楽で申請が来るとは思わなかったでしょうね。

写真


坂本 そうですね。ギネスは審査の仕方がおもしろいんですよ。
ギネス側に提出する資料としては、ゲームをプレイしている様子を映して、
本当にこの曲がゲームで75分間鳴り続けているかという
検証動画が必要になります。

ですが、申請者の中には動画を加工しちゃうような人もいるんですよね。
たとえば大縄跳びを何百人で何百回跳ぶというような
ギネス記録がありますけど、
あれも動画ではいくらでも嘘がつけてしまうから、
ちゃんとイギリスから審査員が来るんです。
そして目の前でギネス達成の様子を見届ける、と。

川越 世界で一番長いゲーム用書下ろし楽曲のほかにも、
いろんなギネス記録に挑戦されてましたね。

坂本 そうですね。
75分間、ちゃんとゲーム上で音楽が鳴っています
という動画をただ撮るだけではつまらないので、
撮っているのと同時に、他の記録も塗り替えようと挑戦しました。
バランスボールの上に立つ長さの世界記録とか、
生たまねぎの早食いとか色々(笑)
僕と、プロデューサーの鈴田健さんと、原作者の藤木淳さんの3人で挑戦して、
Youtubeにも動画をアップしています。よかったらご覧ください。

・・・個人的には大好きな動画ですね。
たぶん僕自身が一番見ているかもしれません。
夜寝る前にお酒を飲みながら見たり(笑)




川越 もはや芸人ですよね、やってることが(笑)

坂本 まぁ、楽しんで仕事をするのが信条なので(笑)

斉藤 楽曲のレコーディング時には、
その様子を全編USTREAMで放送されていましたね。

坂本 はい。以前からずっとプロデューサーの鈴木さんに
「作曲の工程をずっとツイッターでつぶやき続けたい」と言っていたんですよ。

でも、実際に発売するものを前もって「こう作っています」と公開するのは
ちょっと無理だと言われまして。
今回は、レコーディング風景であれば
全部放送しましょうと言っていただけて実現しました。

斉藤 譜面もファンに向けて配布されたそうですね。

坂本 ええ。僕からお願いしました。
なぜかというと、ファンの方にはただ映像を見ているだけじゃなくて、
楽譜を印刷して一緒に譜面を追いかけてもらうことで、
スタジオで一緒に作業してる感覚を味わってほしいなと思ったんです。
なかなかできないことですからね。

結果、何百人もの方が一緒に譜面をめくりつつ放送を見てくれたんですけど、
中にはすごく鋭く譜面の間違いをつっこんでくれる人もいましたね。
「あ、ほんとだ!ここ間違えてる!」って(苦笑)
すごく楽しかったので、今後もできればこういう試みはやっていきたいですね。


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