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音で綴られる“手紙”─。なるけみちこの音楽世界

その4:プレッシャーと葛藤 / 『スマブラX』アレンジ秘話


斉藤 そして『ワイルドアームズ アドヴァンスドサード』(以下、『WA3』)ですね。

なるけ 『WA3』はより西部劇っぽくなりましたね。劇画チックなものを強くしたというか。
音楽のオーダーも「体臭キツイ感じで」と言われて(笑)。
この頃は西部劇をたくさん見ましたね。
『WA3』は、「ワイルドアームズの音楽とは、こういうものだ」と
自分の作風を固めたタイトルだったかなと思います。
メロディラインや、曲の構成、ハーモニーの持って行きかたとか……。
私自身の、「作り手として、こういうやり方で進めていこう」っていうのは、
3がすべて基本になっていますね。

斉藤 具体的な例はありますか?

なるけ 『WA3』の「砂塵、逆巻いて」という曲があるんですが、
頭から最後までつるーんとできたんですよ、メロディとハーモニーと構成も。
ゲームの曲って頭に戻らないといけないんですけど、
それも含めて自然にすべてができた曲で。
ああ、やっぱりメロディというか、“歌”だなというのを強く思いました。

私は、スコアを縦に作っていくタイプなんですよ。
最初から作曲とアレンジをいっぺんにやっていく感じで。
それは効率が悪かったり、全体が見えているようで見えてなかったりすることもあるんですけど、横に作りつつも、縦の、副旋律の合いの手を入れつつ……という作り方が身につきました。

斉藤 続く『ワイルドアームズ アルターコード:エフ』(以下、『WA:F』)ですが、
これは1作目のリメイクでしたね。

なるけ はい。『WA3』で作曲にだいぶ慣れたので、それを活かそうと思いました。
全曲レコーディングでやりますという形で制作に入ったんですが、
たくさんのエンジニアさんに話を通さないといけなくて。
そうするとやっぱり、言葉の齟齬が発生するんです。
ひとりひとりと、それこそ金子くんとみたいに、
思考を共有する時間があればいいんですが、時間もそんなにないですし。
相手もプロのエンジニアさんなので、
こちらの意向をパッとつかもうとしてくださるんです。
でも途中でエンジニアさんが変わったりして、やりとりがうまくいかなくて……。
すごく苦しんだタイトルでしたね。

あと、自分の曲をアレンジし直すというのは、けっこうハードルが高かったです。
自分のギャグをより派手にするみたいなものですからね(笑)。曲数も多かったですし。

永芳 サントラも4枚組でしたからね。

なるけ そうなんです。
まわりの人も、だんだん「オオッ」って反応になってきて、
「やるならやるよ!」って感じになって(笑)。
でもそれが、だんだんとプレッシャーになってきて……
少し、身を持ち崩しはじめたんですよね。
私の、自分自身に対する要求も高くなってきて。
「もっと出来るはずだ!」と思ったり。
『WA1』『WA2』『WA3』と続いてきましたが、
やってることは、そんなに変わらないじゃないですか。
フィールドがあって、ダンジョンがあって、バトルがあって、という。

永芳 たしかに……大きくは変わらないですからね。

なるけ ネタがなかったわけではないんですが、
同じ芸を繰り返すのもつらくなってきたんですよ。
自分で煮詰まってきちゃって。
他のゲームの曲を耳にすると、他の作曲家さんは自由にやってるのに、
なんで私はこんなに縛られてるんだろう、
苦しんでるんだろうっていう葛藤があったりして。
そして、過去の自分の曲をアレンジしているわけですから。
すごく苦しんだタイトルでしたね。

斉藤 その後、『ワイルドアームズ ザ フォースデトネイター』
(以下、『WA4』)の開発に入られるわけですが。

なるけ 『WA:F』の時に身を持ち崩したまま『WA4』の開発に入っちゃって。
どういう姿勢でやっていけばいいんだろう、と思ってしまったんです。
私の音楽もだんだんご支持をいただいて、
インターネットでも「なるけさん、いいね!」って
ほめてくださる方も多くいらっしゃったんですけど、そうでない方もいるわけです。
“なるけ節”とよく言われる、熱血な曲調を、
「自分に酔ってるだけじゃん」と言われたこともあって。
それを聞いた時はショックでしたね……いろんな意見があって当然なんですけど。
実は『WA4』の頃は、“なるけ節”と言われるのがあまり好きではなかったんです。
中傷されている言葉のように聞こえちゃって。

斉藤 そうだったんですか……。

なるけ どういう姿勢で作ったらいいんだろう?
と……何を作ったらいいのか分からなくなってしまって、行き詰まっちゃいました。
それで体調も崩してしまって、甲田雅人さんらにヘルプで入っていただいたんですが、
甲田さんは、すごくバランスのいい、うまい曲を書く人だなと思いますね。
オーケストレーションもかっこいいですし。
『WA4』は、私もやれる分だけなんとかやりきりましたが、それ以降のシリーズは、
甲田さんや上松範康さんらに音楽をお願いする形になりました。

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斉藤 では、『ワイルドアームズ』以外のお仕事についてもお伺いしたいと思います。
なるけさんは、『大乱闘スマッシュブラザーズX』(以下、『スマブラX』)に、
『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(以下、『ゼルダ』)と
『スーパードンキーコング2』(以下、『ドンキー』)の楽曲のアレンジで携わっていますが、なぜこの2作品を担当されたのでしょうか。

なるけ 桜井さん(『スマブラX』のディレクター、桜井政博氏)からアレンジのご依頼を受けた際に、担当楽曲を自分で選べる形だったんですね。
その中で、私がゲームをやったことがあったのが、
『ゼルダ』と『ドンキー』だったんです。

斉藤 なるほど。桜井さんから、
「こういうアレンジにしてください」というオーダーはあったんですか?

なるけ 『ゼルダ』のほうは、「時の神殿のテーマの曲を中心にしつつ、途中に色々はさむ形がいいと思うのですが、自由にやってください」というオーダーでしたね。
「好きなものを使っていいですよ」と、ゲーム中のBGMデータも全ていただきました。
アレンジ制作の際は、めぼしいメロディを全部書き出して、がーっと並べまして。
自分でいろんな曲をフンフン歌いながら、「これは違う……!これも違う……!」とやりながら(笑)、1週間くらいかかって、へとへとになって作りましたね。

斉藤 かなりの労作だったんですね。
では、『ドンキー』のほうはいかがでしょうか。

なるけ 『ドンキー』でアレンジしたのは「とげとげタルめいろ」という曲なんですけど、
この曲有名じゃないですか。
でも、原曲のゆったりしたイメージでは、
アクションゲームにならないなと思ったんです。
『ワイルドアームズ』は、ダンジョンでもなんでも、とにかく“走らせる”んですよ。

永芳 スピード感がありますよね。

なるけ そうなんです。『ワイルドアームズ』では、
ダンジョンの曲でどよ〜んとしたものを作ったら、「ダメ!」と言われていましたから。
そういうものが私の中に刷り込まれていたんでしょうね。
デビッド・ワイズさん(『ドンキー』などを担当した作曲家)の、ふわっとした幻想的な原曲をそのまま踏襲しても違うなと思って、疾走感を出してみました。
4日くらいで作れたんですけど、これはアレンジとしてどうなんだろう、
どういう反応がくるんだろうなと思って……提出するまでには相当ためらいました。
さんざん悩んで提出したんですが、意外にもそのまま通って。
ただ、インターネットでは色々言われたので、少しつらかったですね。
ちょうど『WA4』の、つらい時期とも重なっていたので……。

永芳 僕はあのアレンジ好きですよ!
スピード感があって、聴いてて気持ち良くて。

なるけ ありがとうございます。
なんか、別の曲みたいになっちゃったかもしれませんけど。

永芳 いえ、中途半端なアレンジよりも、
あれくらい思い切ってやってもらったほうがいいと個人的には思いますね。

なるけ ああ、元ゲームアーツの西さんも同じことを言っていました。
「全然ちがうからいいんだ」、「ここまで突き抜けられたらしょうがない」って(笑)。
ありがとうございます。


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