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音で綴られる“手紙”─。なるけみちこの音楽世界

その2:「ハガキがこんなに来てるよ! 立つよ、ほら!」


斉藤 『ワイルドアームズ』の音楽制作で、印象的なエピソードはありますか。

なるけ 当時は、音楽の方向性を打ち合わせするために、
週に1回メディアビジョンへ行っていたんです。
社内には応接セットがあって、ソファが置いてあったんですけど、
行くと必ず誰かがそこで寝ていて……(笑)。

斉藤 ありがちですね、ゲーム会社には(笑)。

なるけ はい。日本テレネットの時もそうでしたし、私にとっては見慣れた風景でしたね。
その頃から知っているメンバーもたくさんいたので……あ、また寝てるな、と。
「こんにちは〜、会議なんで」ってどかして。
生暖かいソファで打合せしていましたよ。

斉藤 打合せでは、どんなことを話されていましたか?

なるけ 金子くんとやるといつもそうなんですけど、
打合せが、1回で最低3〜4時間はかかるんです。
会議室で8時間くらい話し続けたことも何度か。
でも、アニメや映画、マンガの話をただずっとしていることが多かったですね。
今週のエヴァは……みたいな(笑)。

斉藤 そうなんですか(笑)。

なるけ でも、そういうやりとりの中でお互いのツボを探って、つかんでいきましたね。
「こういうゲームにしよう、こういうシステムにしよう」と、『ワイルドアームズ』のゲーム自体の話をするよりも、雑談の中でお互いの中の共通項を増やしていって。
今考えると、それがすごく大きかったのかもしれないです。
金子くんが、『ワイルドアームズ』という作品にどういう傾向の曲を欲しいのか見えてきたり、「こういう感じの曲を作れば、たぶんストライクだな」とわかったりして。

斉藤 なるほど。いざ曲を提出した時に、
金子さんの求めるイメージと違うことはなかったんですか。

なるけ よくありましたよ(笑)。
アレンジしなおして、こっそり再提出したりということもありました。

斉藤 そういったすり合わせの難しさは、
他の作曲家の方へのインタビューでも、よく出てきますね。
ディレクター側の意向がわからなくて、
何回も直したり……相手が何を望んでいるのか分からなかったりして。

なるけ そうなんですよね。「こういう感じの曲が欲しいんです」と、
何か既存の曲を渡されることもありますけど、それっぽいリズムや楽器を踏襲して、
それっぽい曲を書いて……というのでは心に刺さるものが作れなくて。
私の場合、なぜその曲がいいのかを、全然別の方向から探っていくんですよ。
相手の人の趣味や、傾向といったものから。

斉藤 別の方向から、ですか。

なるけ ええ。最近見た映画についてとか、
「昨日、サッカー日本代表勝ちましたよね!」って時に
スポーツニュースで流れていたBGMについての話とか。
そういう雑談から入っていったほうが、実は核心に迫るのが早いというか、
正しい道なんじゃないかと私は思っていて。“人対人”なんですよ。
そういうものを大事にしたほうがいいと思うんですよね。
なんでもそうだと思いますね、ものを作る時には。

斉藤 なるほど、その通りだと思います。
話は変わりますが、なるけさんが初めて生楽器のレコーディングをされたのは
『ワイルドアームズ』の時でしょうか?

なるけ そうですね、その時が初めてです。

斉藤 生楽器を使うことになったきっかけは、何だったのでしょう。

なるけ 『ワイルドアームズ』は、ゲーム中のほとんどの部分は内蔵音源なんですが、
イベントシーンの部分はオーケストラの生演奏なんです。
制作当初に、大事なシーンはオーケストラで録音します、
とSCEのサウンド担当さんから言われて、「ええっ!」と思って。
スタジオでレコーディングするのはそれが初めてでしたね。
ゲーム業界でそんな機会は一生ないだろうなと思っていたんですけど。

斉藤 急にそういう機会が来たんですね。

なるけ ええ。40〜50人ほどのオーケストラでの録音で。
オーケストレーターの方を立てて、いざ現場へ臨んだんですけど、
スタジオでは明らかに私1人だけ、田舎から出てきた人みたいで(笑)。
スタジオの雰囲気に全然慣れていないのに、
コントロールルームの一番真ん中の、一番いい席にぽつんと座らされるわけですよ。
えらい方々も後ろにずらっといて。

永芳 居心地が悪かったわけですか。

なるけ はい。「早く帰りたい」って思ったりして(笑)。
トークバックっていう、奏者さんたちに向けてしゃべるためのスイッチがあるんですよ。
「これを押してしゃべってください」と言われたので、
何も知らずにスイッチを押しながら、スイッチに向かってしゃべって……。
「なるけさん、普通にしゃべっていいんですよ!」って言われました(苦笑)。
そのぐらい何も分からなかったですね。
もう、恐怖でいっぱいでした。

永芳 でも、奏者さんには演奏に対する指示を出さなければならないわけですよね。

なるけ そうなんです。「指示を出してください」と言われるんですけど、
出せるわけないじゃないですか、スイッチひとつ分からないのに!
でも、呼ばれたからにはちゃんとやらなきゃいけないと思って、
それっぽいことは言いましたけどね。
まわりの方々が優秀な人ばかりだったので、
そこは上手に持っていっていただけました。

永芳 責任を持ってやりきったんですね。

なるけ はい、なんとか。
エンディング曲の「青空に誓って」では、
当時テレビ番組の『THE 夜もヒッパレ』によく出ていらっしゃった
歌手の渡辺真知子さんを起用してましたけど、
実際にお会いした時は、「あっ、本物」が第一声。
自分がそこにいることが不思議でしたね。
……それを考えると、今でもファンの方から
「『ワイルドアームズ』の曲が好きです!」
と言ってもらえるのが不思議な感じです。

写真



永芳 そういえば『ワイルドアームズ』のサントラは、
ファンの皆さんの署名活動で、10年の時を経て、
全曲を収録した完全版が発売されましたからね。
すごいことですよ。

なるけ すごいですよね。
私はメディアに全然出なかったので、
音楽がウケているということも全然知らなかったんですよ。

斉藤 インターネットもまだ無かった時代ですし、分からないですよね。

なるけ ええ。でも、たまに金子くんが、
「音楽がいい!っていうアンケートハガキがこんなに来てるよ! 立つよ、ほら!」って、
見せてくれることがあったんです。
実際に立ってるんですよ、束になったハガキが!(笑)
それはすごいなと思いましたし、うれしかったですね。

あと、最近はゲーム音楽コンサートのPRESS STARTで
『ワイルドアームズ』を扱っていただけるようになりましたけど、
「そんなに好きだったんだ、みんな!?」ってびっくりしてますよ(笑)。
いまだに支持してくださる方がたくさんいるのが、ありがたいなと思っています。


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