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―― では、『ムジュラの仮面 3D』のサウンド面についてもお話をうかがえたらと思います。『時のオカリナ 3D』の時は、最初は音楽をアレンジしたものの、最終的には64版の原曲を忠実に再現するという方向になったとお聞きしました。『ムジュラの仮面 3D』でも、方向性としては原曲を忠実に再現するという形なのでしょうか。

横田 はい、そうですね。今回は『時のオカリナ 3D』の時よりもさらに原曲に忠実に、64の音や演出を再現する方向で完成させました。ゲーム音楽ファンの方からは、「なんでアレンジしないんだ」というご意見も伺っています。それぞれいろんな思いがありますよね。

―― ゲーム音楽好きとしては、すごくわかるんです。「原曲のほうがいい」という人と、「アレンジされた曲を聴きたい」という人、それぞれいらっしゃるので……。

横田 そうなんですよね。今回もアレンジするという選択肢は当然あったわけなんですが、原作の64版も、ゲーム中のひとつひとつの音色が64独特のものだったんですよね。今の最先端の音源って、けっこう生音に近いんですよ。それを使ってアレンジをすると、その64独特のゲーム音楽らしさが失われてしまう気がして。ファミリーコンピュータでいうピコピコ音みたいな感じで、64も、そのゲーム機だったからこその音色というものがあったんですよね。それは大切にしたいんです。



―― 今回、サウンド面でパワーアップした点はありますか?

横田 先ほどお話しました通り、音楽に関しては原作を忠実に再現しているのですが、そのかわり、効果音をけっこう補強しています。『ムジュラの仮面』というゲームは、とにかく「こわさ」が売りなんですよね。パッケージやポスターもそうなんですけど、とにかくダークで、全体的にこわくて、物語のムードも暗い感じなんですよ。

―― 64版のCMでは、「今度のゼルダは、こわさがある」というキャッチコピーが使われていましたね。

横田 はい。遊んでいただくと分かるのですが、不思議な世界観をもったゲームなんですよね。サウンド面でも、64版ではこわい音をいっぱい使っていたんです。ただ、3DSのスピーカーの特性上、それを再現することがすごく難しかったんですよ。でも、こわい音を再現できないと『ムジュラの仮面』ではないと思いますので、3DSのスピーカーでよりこわい表現に聞こえるように、効果音を新しく作り直しているものもあります。3DSで遊んでも、64版の思い出がよみがえるように……という感じでしょうか。『時のオカリナ 3D』では、音楽の再現性にこだわってみましたが、今回はそれに加えて効果音もさらに補強しています。色々とこわい雰囲気の音がありますので。

―― リンクがお面をかぶった時の叫び声などですね。

横田 叫び声はそのままなのですが、たとえばそういったイベントシーンで映像が強化されている場面などに効果音を足しています。3DSのスピーカー用に調整された効果音を150以上、新規でご用意しています。

―― かなりの数を新しく作られたんですね。

横田 はい。ですのでファンの方は、ぜひ64版と3DS版のサウンドを聴き比べていただくと面白いと思いますね。「あ、ここの効果音変わったね」みたいな。いろんな発見もあるんじゃないかなと思います。

―― 『ムジュラの仮面 3D』で追加された新曲はあるのでしょうか?『時のオカリナ 3D』では、スタッフロールの2曲目をオーケストラ録音で追加されていましたが。

横田 はい、またスタッフロールの曲を追加しました。今回は私ではなく別の者が担当しておりまして、オーケストラ録音ではないのですが、新曲としてご用意しています。ぜひクリアして聴いていただきたいですね。

―― ほかに『ムジュラの仮面 3D』のサウンド面の魅力はございますか。

横田 64版からある要素ですが、『ムジュラの仮面』ならではの遊びだと思うのは、オカリナ以外の楽器を演奏できることですね。お面を被ることで、リンクが奏でられる楽器が変わります。オカリナだけではなく、太鼓を叩いたり、ギターを弾いたりもできて。その辺りは『時のオカリナ 3D』には無かった要素ですね。

あとゲームに関する新要素で言うと、セーブポイントができたのがゲームとしてはすごく大きいですね。64版を遊ばれていた当時、セーブができなかったというのは覚えておられましたか?

―― はい。つらかったです(笑)。緊張感がすごかったですね。

横田 そうなんです。64版の時は、壮大なゼルダの世界なのに、セーブができるのはゲーム中のとある1回のタイミングだけだったんですよね。私も『ムジュラの仮面』は64版の発売当初に、かなりやりこみました。「なんだこのゲームは!」って思うくらいしんどかったですけど、なんとかコンプリートしました。

今回、3DS版の開発で久々に『ムジュラの仮面』を触ったわけですけど、普通にセーブポイントがあるんですよ。開発を進めて何ヶ月か経った時に、開発メンバーから「今回セーブポイントがついたけどどう思う?」って聞かれて、「え、これ64版には無かったんだっけ?」って……本当に忘れてました(笑)。

―― 違和感がなかったんですね(笑)。

横田 はい。よくセーブポイントなしで当時はプレイできてたな、と。3DS版はセーブポイントができましたので、初めて『ムジュラの仮面』をプレイする方にも遊びやすくなったと思います。もう、本当に遊びやすくなったんですよ。64版当時は、みんな苦しんで苦しんで、それでも遊んでいたんだなあっていうのを思い出しますね(笑)。3DS版の『ムジュラの仮面』は、初めて遊ぶ方でも大丈夫です。ただ、『時のオカリナ』を遊んでいただいた方のほうが、より楽しめる要素は多いかなとは思いますね。

―― どんな点でより楽しめるのでしょうか?

横田 世界観としてパラレルワールドなんですよ。『時のオカリナ』で出てきた登場人物が、『ムジュラの仮面』でも出てくるんです。『ムジュラの仮面』は『時のオカリナ』の数か月後のお話なんですけれども、「あれっ、この人ってカカリコ村でこんなことやってた人じゃなかったっけ?」というような、見覚えのあるいろんな人が、今回の拠点であるクロックタウンという町に出てくるんですよ。「あ、この人ってこんなキャラに変わったんだ!」という違いを楽しんでもらえると思います。

―― パラレルワールドとしての面白さがあるわけですね。

横田 はい。性格も変わってたりしますので。そういう楽しみ方はあるかなと思います。もちろん『ムジュラの仮面』から遊んでも、『時のオカリナ』とのストーリー的な関連性はほとんどないので大丈夫ですけどね。ただ、“時のオカリナ”というアイテムに関して言うと、それがどういう意味を持つのかということは『時のオカリナ』を遊ばれていたほうが分かりやすいですね。『ムジュラの仮面』って、ほとんどの方がゲームオーバーになるんですよ(笑)。本当にびっくりするくらい、誰でもゲームオーバーになっちゃうんですけど、そこで“時のオカリナ”というアイテムが何なのかということが明らかになります。まあ、ゲームオーバーになるのも『ムジュラの仮面』の楽しさのひとつですね。



―― 『ムジュラの仮面』の楽しさといえば、クロックタウンに住んでいる人の生活感がすごいですよね。

横田 そうなんです。『ゼルダ』なので、ダンジョンをクリアしつつアイテムをゲットして、どんどん先へ進んでいくっていう遊びではあるんですが、ムジュラはなんといってもクロックタウンの人間ドラマも大きな楽しみのひとつですね。

―― 相当濃い人間模様が詰まってますよね。64版当時のインタビューで、小泉さん(小泉歓晃氏。64版『ムジュラの仮面』で、サブイベント部分のディレクターを担当)が、「これまでの人生で見てきたことをすべて詰め込んだ」というお話をされていましたから。

横田 本当に。「任天堂がよくこんな脚本を許可したなー!」って当時はただのゲーマーだった私もびっくりしました。

―― サブイベントのボリュームがすごくありましたよね。リンクの行動で、町の人々の行動が変わっていったりして。

横田 そうですね。冒険の合間の人間模様も、突き詰めていくと面白いと思います。クロックタウンの人々の生活している様子が、完全リアルタイムで描かれてますので。

あと、ゲーム中に「団員手帳」というアイテムがあるんですけど、3DS版では、それがより便利になっていますよ。「団員手帳」には、クロックタウンの人々の行動予定が、ビジネスマンのスケジュール帳のような感じで書かれているんです。クロックタウンではいろんな事件が起こるんですよ。それを解決するためには、「団員手帳」を駆使する必要があります。「この人が今ここにいるから、この間に自分はこれをやっておこう」みたいな計画性が求められますね。『ムジュラの仮面』は基本的にはこわいゲームなのですが、“いかに悲劇を食い止めるか”というテーマもありますので、こわい中でもぜひがんばって、悲劇が起こらないように、クロックタウンのみんなを助けてあげてほしいなと思います。

―― では最後に、『ムジュラの仮面 3D』を楽しみにされているファンの皆さんにメッセージをお願いいたします。

横田 はい。まず、『ムジュラの仮面 3D』を初めて遊ばれる方にお伝えしたいのは、いつもの『ゼルダ』だと思って遊ばれると、いろんな意味で予想外の『ゼルダ』に触れられると思います。もちろんゲームの目的は初めから提示されていて、その通りに進めていくだけでも楽しいのですが、この『ムジュラの仮面』の魅力は、“いかに寄り道するか”だと思うんですよね。ぜひ、ゲームの中心となるクロックタウンという町を練り歩いていただいて、いろんな住人に話しかけていただきたいなと思います。そうすると、プレイヤーの皆さんの中で、それぞれの『ムジュラの仮面』におけるドラマがスタートしますので。

次に、64で『ムジュラの仮面』を遊んだことのある方へのメッセージなんですけれども、とにかく遊びやすくしました! これが大きいです。遊びやすくなりましたが、決して難易度を下げたりはしていないです。ものすごく手ごたえのあるゲームであることには違いありません。

あとは、せっかく今回はサウンドのインタビューなので、『ゼルダ』ミュージックをお好きな方に向けてのメッセージなのですが、『時のオカリナ 3D』からさらにこだわって、今回も64版の音を再現することに時間をかけました。さらに効果音をかなり増やして、補強しております。ぜひまた聴いていただければと思います。

―― ありがとうございます。それにしても、サウンド担当の方がゲームのことをこんなに詳しく話されているのって、すごいですね。サウンド担当の方へのインタビューって、大体音楽が中心のお話になるのですが、横田さんはかなりゲーム自体につっこんでお話しされていたのが、本当にゲームがお好きなんだなというのがひしひしと伝わってきました。

横田 やっぱりゲーム、大好きですよ。40歳過ぎても日々遊んでいます。ゲーム音楽を作ることも楽しいですけど、面白いゲームを作って、みなさんにのめり込んでいただいて、そして繰り返し遊んでいるうちに音楽を口ずさんでいただけるようなものを作りたいですね。ゲーム音楽が単体でコンサートで演奏されるのもひとつの文化かなとは思うんですが、“この音楽が、ゲームのどんな場面のために作られたのか”という所まで合わせて広めていけるように、これからも頑張りたいと思っています。





⇒【前編】『ゼルダ』コンサートの聴きどころ&こだわり



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