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『ポケットモンスター』受け継がれる音楽のバトン

インタビュアー&ライター 石橋 加奈子




すべてのはじまり、『ポケットモンスター 赤・緑』の楽曲に迫る


─ たった1人で『ポケットモンスター 赤・緑』のサウンドを作った増田さんですが、実際には当時、どのような作業をされていたんでしょうか?

増田 全体のプログラムと音楽を再生するプログラムと、音楽全部と鳴き声と効果音すべてをやっていました。

一之瀬 まさに、生みの親ですね。

─ 「音楽を再生するプログラム」というのが当時ならではの作業だと思うんですけど

増田 そうですね。たとえばポケモンの鳴き声は、普通のPSG(※)の使い方をしていないんです。PSGの波形をゆがませるプログラムを自分で組んで鳴き声を表現したので、そのプログラムがないとあの鳴き声の音が鳴らなかったりします。
(※)PSG・・・音を作り出す電子回路の一種。ゲームではファミリーコンピュータ、ゲームボーイ、ゲームボーイアドバンスなどに使われている。

─ 佐藤さんと足立さんは、入社前に『ポケットモンスター 赤・緑』をご存知でしたよね。曲についてはどんな印象をもたれていましたか

足立 私はタイトルを聞いただけで「あぁ、ポケモンだ!」とわかるインパクトはすごいなと思っていました。いまでも、越えられない。

─ タイトル曲といえば、増田さんのブログ『増田部長のめざめるパワー』で30個ぐらいのプロトタイプから絞っていったというエピソードが印象的でした

増田 ディレクターの田尻との制作中、方向性を確認するためにいくつか作った感じです。当時制作に使っていたEnsoniq SQ80(1988年発表のPCM音源シンセサイザー)は、ボタンを押すだけで録音ができたのと、曲と曲を重ねることもできる機材だったんです。 なので15秒ぐらいのフレーズを複数制作して、田尻のイメージに引っかかったものをベースに前後をつけていきました。みなさんが印象に残っているだろうフレーズは、怪獣の「ギャオー!」という鳴き声のイメージで音程を作っていたので、僕としては狙い通りでしたね(笑)。

─ これは、帰ってすぐにでもタイトルを聞きたくなるお話ですね……!プランナーとして入社されていますが、佐藤さんはどうでしょうか

佐藤 私は『ポケットモンスター 赤・緑』が発売される頃、ゲームショップでアルバイトをしていました。
なので、ものすごい勢いで売れていくのを販売員として見ていたんですよ(笑)。

最後のチップチューン『ポケットモンスター ルビー・サファイア』



佐藤 曲については、長い音が多くて短く切る音が少ないなと感じていました。同じ曲でも現在のアレンジを聞くと歯切れよくなっているのがわかると思います。

一之瀬 その理由は、ハードウェアの容量制限で休符を入れるのもままならなかったのかもしれないですね。

増田 理由は2つあって、1つは一之瀬も言っているとおり「1曲入れるなら、ポケモンを1匹入れたほうがいい」という話になってくることですね。容量をつかわないためには、「休符を入れない」「繰り返す」というのが重要で、ベースを作るにしても高低差のある2つの音だけを作ってループにすると何キロバイトか節約できるんです。

もう1つの理由は、僕がシンセサイザーが好きなこともあってかなりの音フェチなんですよ。

佐藤 シンセサイザーを自分で作ったりもしていましたよね。

増田 作りましたね!

僕はテクノ系のバンドを見た時に、キーボディストより後ろのデッカイ機材が「カッコイイ!」と思っていたタイプで。そこから鳴る音は、同じ音なのに音色が変化していく、しかも世の中にありえない音で鳴るっていうのがたまらない魅力だったんです。この経験があったので、微妙に音色が変化するような長い音を取り入れていました。それが、PSGの魅力でもあると思いますね。

─ 振り返ると、ゲームボーイアドバンスで発売された『ポケットモンスター ルビー・サファイア』がオリジナルシリーズにとって最後の純正チップチューンなんですよね

一之瀬 おもしろいのが、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』を遊んで曲を好きになってくれた人は、PSGとPCM(※)が混ざった音がすごい好きだと言ってくれるんです。『ポケットモンスター ルビー・サファイア』から遊んでくれた人が『ポケットモンスター 赤・緑』の楽曲を聞くと、ゲームボーイはPSGだけですから音色で「昔の作品なんだな」とわかる。この感覚はゲームならではだと思います。
(※)PCM・・・音を作り出す電子回路の一種。ゲームではゲームボーイアドバンス、スーパーファミコン、メガドライブ、セガサターンなどに使われている。ゲームボーイアドバンスはPSGとPCMのどちらも再生可能。

増田 いまはいろんな制約から解放されているので、音色が増えましたね。とはいえ、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』の時代でも生音のサンプリングは取り入れていたんです。ティンパニはいい音でサンプリングできたので、バトルの曲では常に使っちゃった(笑)。音フェチということもあって、サンプリングした音色がいいからアレンジしていくというのは『ポケットモンスター ルビー・サファイア』以降ありましたね。


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