その3:古代祐三が語る「ゲームミュージック・コンポーザーとは?」
─ディレクターの意図に応える難しさ。 そこから生まれる光るもの。 | |
斉藤 | 作曲で行き詰まることはあるんでしょうか? |
古代 | いやぁ、しょっちゅうですね。 リフレッシュは時間を待つしかなくて、 究極を言うと、降ってくるものを待つしかないんですよ。 作曲していて「ディレクターが何を求めているからわかりづらい」という時などに、 スランプになることがあります。 ディレクターとのやりとりで苦労している時、 「もうちょっと楽しみながら作れたらいいな」と思うこともあります。 でもそこをクリアしていくと、そのゲーム音楽の独特の良さにつながることが確かにあって、無駄な作業とは言えないですね。 |
高部 | 制約がある中を工夫することで、従来にないものに繋がるということですか。 |
古代 | そうですね。 だから普通の音楽のジャンルにはないものが多いんですよね。 サンプル曲に似せて作るわけにいかないという場合、いろいろ考える必要がある。 そこで、ディレクターの要求を満たす要素を詰め込むことから始めるんですが、 それが音楽的に熟し切っていないと、なんか繋げたような曲になってしまうんです。 以前、「何個かの曲を繋げたように聞こえます」って言われたことが(笑) 例えば、平原があって、空を飛んでいて、勇ましいんだけど、途中からデカいモンスターが出てきてやられちゃうからちょっと寂しいフレーズが入って……っていう場面の曲で(笑) じゃあ平原と寂しいと勇ましいをくっつけてやろうかと。 |
(一同笑) | |
古代 | 余裕がないと、合体音楽になってしまう。 でもそれをうまく昇華できた時に、 何かキラって光るものができるという良さがあるんですよね。 |
─マイブームは「早寝早起き」 | |
斉藤 | ところで、最近のマイブームなどはありますか? |
古代 | 最近、作曲しかやっていないんですよ。 だからマイブームっていうわけじゃないですけれど、 長年改善できなかったことを改善したことがひとつあるんです。 それが早寝早起きなんです。 私って夜更けてこないと、曲ができなかった。 でも仕事の量が増えてきて体を壊してしまい、「もう早寝早起きの習慣をつけないとやってられない」というところまで追い込まれ、改善できました。 今は昼でも曲が浮かぶようになったんです(笑) ついでにダイエットで12kgくらい落として、ますます調子が良くなりました。 いやあ全然違いますね。ペットボトル2リットル6本分をずっと腰に巻いていたんですから(笑) |
斉藤 | 凄い健康的な状態ですね。 |
古代 | そうですね、調子良くなりましたね。 仕事がある量を超えると、てきぱきやらないといけなくなる。 「てきぱき回路」ってのが朝じゃないと回らないんですよね。 夜はまったり作る感じで。 例えば「朝9時から11時半までにここからここまで作る!びしっ!」って感じで、 小目標をたくさん作るんですね。 小学校の時間割並です(笑) |
高部 | お忙しそうですが、最近のお仕事は作曲がほとんどですか? |
古代 | 会社の仕事は一部で、ほとんど作曲です。 細かい仕事をいただくことも多くなり、この間セガの「maimai」というダンスゲームの曲を1曲やらせていただいたんですけど、そういうワンショットを「世界樹」とか「湾岸」とかの間に挟んでいくんですね。 そこで、何本か同時にやらないといけない時があるんですけど、 多ジャンルを1日でやるのは頭が切り替わらないので絶対無理ですね。 作曲では、頭の切り替えが大変です。 やはりオケを作るのとテクノを作るのって、使う脳みそが全然違うので、それを同じ日にはできない。 だから、曲を作ってクライアントに確認してもらう場合は、その日のうちに返事をいただければ、作り直すことになってもその頭のまますぐ取りかかれるので、ありがたいですね。 |
斉藤 | 多ジャンルを要求される作曲家ならではの悩みですね。 |
古代 | ガッツ石松さん風に言うと、考え方が360度違う(笑) でも「苦労して作ったんだぞ」って聞かれるのもいやだし(笑) そこを自然に聞こえるようにしたいですね。 |
─ライブで自らが演奏!? | |
高部 | 作曲だけでなく、ライブで演奏されるようなことはお考えじゃないですか? |
古代 | 練習する時間がなかなか取れないので。あと凄いあがり症なんです。 MAGFestでもDJをやってきたんですけど、フェーダーの右左を間違えるくらいで(笑) テンポフェーダーの操作をミスしたのがYouTubeで公開されて、外人に「なんでここで遅くしたんだろう? これがなければ良かったのに」って書かれて(笑) そんなので「フロントで弾け」なんて言われても絶対無理(笑) ライブでやってる人はいつも感心してしまいます。 |
斉藤 | 作曲の時には鍵盤を弾いていらっしゃるんですよね? |
古代 | はい、パソコンに書くより鍵盤で弾くほうが速いので。 作曲では鍵盤8、ギター2くらいですかね。 自分ひとりで弾いている時は大丈夫なんですよ。 でも横に人がひとりでもいる時は、「あれぇ?」って感じで(笑) セカンドキーボードくらいならできるかもしれないですが。 |
高部 | ファン的には古代さんが舞台で演奏されているというだけで嬉しいですが。 |
古代 | そうですね。自分の曲だったら自分の家で練習できるから、「オルガンだけ弾いといてくれればOK」というくらいでしたら、大丈夫かもしれませんね。 |
─「こだわり」こそが古代節 | |
高部 | ゲームミュージック・コンポーザーが、他のコンポーザーと違う部分はどこでしょう? |
古代 | ゲームありきで曲を作るので、プランナーやディレクターが望んでいることをどれだけ叶えてあげるかというところが重要で、苦心するところです。アーティストと言われる自分の世界を追求している人とは完全に真逆です。 でも私の場合、欲張りなところがあって、それでも「個性を入れていきたい」というのがあるんですよ。 ちょっとアーティスティックな部分を残したい。それが誇張しすぎると拒絶されたりして、さじ加減が難しいですね。 また、ゲームのBGMの特徴は、長時間聞くということもありますが、同じ曲が意味の違うシーンで使われることもある。 町の曲で悲しい時にも嬉しい時にも使われるとなると、考えて作らないといけないじゃないですか。 「悲しい曲」というように、役割がはっきりしている曲は、実は凄く作りやすいです。また映像が先にあって曲を作るのはとてもやりやすいですが、使われる場面がよくわからない時が大変ですね。 私の場合、ゲームの持っているテンポ感、使われ方などを、ある程度自分の中で計算して作曲します。 それを考えないで作曲することもできるんでしょうが、自分の場合、いちゲームファンとして許せないので。そのあたりに苦心しますね。 |
高部 | シリーズものであれば具体的に場面がイメージしやすいですか? |
古代 | そうですね、想像しやすくて負担は軽減されますけど、 自分の場合、マンネリが嫌いなんですよ。 違いを出しつつ継承するという、そこのせめぎ合いにいつも苦心します。 |
高部 | ゲーム音楽はジャンル的に自由な部分もあります。 うまくいけば、一般の音楽にないアーティスト性を出しうる可能性もあるのでは? |
古代 | 可能性は十分にありますね。 自分の場合、ディレクターさんの要望に対して、まずラフ版を出して、OKが出たら思い切り好きに詰め込もうっていう二段階路線を、最近ずっとやっています。 そこでアーティスト性を少し出したりとかします。 |
高部 | 様々なジャンルを担当されているので、「古代節」も多岐にわたります。 ご自身では自分の音楽をどのようにお考えですか? |
古代 | 気持ち良さを感じてくれるといいなというのがありますね。 それがメロディラインの作り方の時もあれば、音色の作り方もあるし、リズムの刻み方もある。手段はいろいろありますが、こだわりどころをひとつ入れるというのが自分のモチベーションなんですよね。 変な言い方かも知れませんが、私はあまり自分の曲に陶酔できるタイプじゃないんですよね。 だから、自分で自分の曲を後で聞ける気になるためにも、1カ所でもいいからこだわりどころを入れるんです。 例えば、比較的平坦な曲でも、「ベースのこのエッジの部分はこだわった」というように。 そうすれば自分でも「そこ、こだわってるなぁ」っていう見方ができるんです。 ジャンルは様々ですが、そのこだわりどころが、いわゆる「古代節」に繋がってると思いますね。 自分のモチベーションを高めるこだわりどころ、と言えると思います。 |
高部 | 今後どのような活動、仕事をされていきたいとお考えですか? |
古代 | これといった強烈な願望はなくて、常々その仕事でベストの結果を出すというのが目標になっています。 将来もそれを続けていって、音楽性も高めていきたいと思いますね。 ただ、常に新しいサウンドとか、今やってることより規模が大きいこととかをやりたい。前を向いてやっていきたいです。 私はモチベーションが仕事のうえで一番大事だと思っています。 いい曲を作ろうと思った時、いいメロディを考えるんじゃなくて、いかにモチベーションを高めるかということを考えるんです。 その手段は、例えば楽器を買ったとか、何でもいいんです。 常にモチベーションを高める要素を探しながら仕事をしていければいいですね。 |
古代祐三氏への特集取材「ザ・ゲームミュージック・コンポーザー〜古代祐三インタビュー〜」は以上となります。 最後までご覧いただきありがとうございました! |
世界樹の迷宮LIVE2013
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