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ザ・ゲームミュージック・コンポーザー〜古代祐三インタビュー〜

その2:古代サウンドのルーツを探る


─ゲーム・ミュージックとバンドアンサンブル

斉藤 チップチューン時代、80年代の頃に作曲家で影響を受けたのは?

古代 当時「ドルアーガの塔」「スペースハリアー」「グラディウス」というのが、
私の中でかなり衝撃だった3本なんです。
その他にもいっぱい好きなのがありましたが、作曲家というよりはメーカーですね。
特にコナミが好きでした。
当時はメーカーによってハードが違っていて、もの凄く個性があったと思うんです。
その個性、曲の良さ、打ち込み方、そういうのをトータルでアーケードゲームの音の影響というのは凄く大きいですね。
普通の音楽から影響を受けたというのは当時はなくて、ゲーム音楽からの影響ばかりでしたね。

高部 高校生の頃は、ゲームミュージック以外はどのような音楽を聞かれたんですか?

古代 それは当時の高校生とあまり変わらなくて、洋楽のほうが若干多かったですかね。
当時、音楽自体の数が限られていて、絞りこまれてきてラジオから配信されていましたが、流れているものはだいたい何でも聞いていましたね。
邦楽洋楽問わず70'sから80'sあたりは好きで、今もよく聞きます。

特に最近は70年代の日本の歌謡曲、
特にアンサンブルの作り方に目覚めてしまって。
音の組み立て方が凄く好きなんです。
当時の歌謡番組のほとんどがライブ演奏で、
そこから作られるグルーヴ感がめちゃくちゃ良くて。
ビッグバンドで、重厚に作ってあってびっくりするようなものもあります。
録音技術の関係もあるのかもしれないですが、
ごちゃっとした良さが凄く出る編成なんだなぁと。
あの時代の音ってまた復活しないのかなぁって思いますね。

斉藤 ライブだと一発でいい演奏ができないと、いい音にならない。
今だと後でなんとかなりますよね。

古代 調整したりできますからね(笑)
昔はあるバンドメンバーで「間違ったら罰金」っていう(笑)
それくらい緊張感を持ってやっていた。
私も最近書いたスコアにそういうテイストを入れたんですが、今の若い人はリアルタイムな体験がないから、古いとは思わないはずなんです、理屈から言えば。
たとえば自分たちが19世紀の音楽を聞いて古いとか思わないですよね。
70年代くらいのサウンドも、旋律的な面以外に、バンド構成とかアレンジの面でも、
もうちょっと復活してほしいなと個人的に思いますね。

斉藤 そのあたりのサウンドは今、商業音楽では少ないですが、
ゲームだとできる可能性がありそうです。

古代 そうですね。
ゲームだとディレクターが理解を示してくれれば比較的やりやすいですね。

斉藤 今は「世界樹の迷宮」シリーズの最新作
「新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女」を担当されていますね。

古代 「世界樹の迷宮IV 伝承の巨神」の延長線で、
旧作の曲も完全にアレンジし直しています。
曲数もボリュームアップし、「IV」より生録する曲数が増えていますが、
「IV」の時とほぼ同じ奏者なので、演奏のクオリティもバッチリだと思います。

斉藤 「世界樹I」の頃は生演奏を意識して作曲されていたんですか?

古代 全く意識していなかったですが、
意外にアレンジし直してみたら、いけるなこれって(笑)
FM音源の流儀に則って作ったんですが、アレンジし直してみたら、
自分の音楽のルーツが生きているのがわかりました。
「あ、そのままブラスのフレーズにはまる」といった感じで、
はめていくとそのまま演奏になる。
結構、違和感ないと思います。

高部 「IV」の曲は生演奏が多いですが、
「FM音源だったらどうなるか」と想像しやすかったです。

古代 FM音源だった「III」までを意識しながら延長線で作ったので、
当然そういう流れになりますよね。

写真


─古代祐三の音楽的ルーツ

高部 古代さんの音楽のルーツはどのあたりにあるんでしょうか?

古代 一番長く触れているのはクラシックだから当然クラシックになるんでしょうけど、クラシックの流儀というか方法論が曲ににじみ出てくるのが嫌で、わざと変えたりします。
昔はそういうのを意識しないでやっていたから、クラシックがルーツだとわかってしまうような曲が多かったかもしれませんが。
また、趣味で聞いてたのはフュージョン、ロック、歌謡曲、テクノなどのほうがむしろ多かったので、それらもルーツと言えます。

あと父が音楽マニアで、レコードを2000枚くらい持ってたんですよ。
画家なのでいつも家にいて、ずっとレコードをかけていた。
クラシックがメインですが、ビートルズも聞くし、現代音楽、ジャズなどジャンルが雑多で、その影響がかなりありますね。
だから自分の中でいろんなジャンルに対する抵抗が全くないんです。

YMOが流行った時に一番好きだったのが坂本龍一の「B-2 UNIT」だったんです。
あれが当時一番ぶっ飛んでたんですが、現代音楽に慣れていたおかげで、すんなり受けいれられた。今聞いても凄い名盤ですよ。
あと、フュージョンだとカシオペアや高中正義がむちゃくちゃ好きでした。

家ではクラシックやジャズが流れてて、学校では友人からメイデン(イギリスのヘヴィメタルバンド「アイアン・メイデン」)聞かされて(笑)
とにかくいろんなジャンルを聞いてましたね。

斉藤 ゲームによってだいぶサウンドが違いますが、作品を担当する時に勉強というより、元々自分の中にあるもので書かれるんですか?

古代 もちろん勉強もしますけど、
まず「すんなり入れるか」というのがポイントだと思うんですよ。
ジャンルのリクエストがあった時は、そのジャンルを聴いていた時の気持ちを思い出して、サンプル曲を聞くとスイッチが入ります。
小さい頃からの積み重ねというか影響があってこそだとは思います。

高部 どのジャンルの曲を作りたいということはありますか?

古代 いや、どれもやれればその時スイッチを入れてやりますけど、あまり一般にないものがやりたい。例えばエレクトロハウスを作る場合、今は世間に溢れかえっているので、どうやってもそれっぽくなっちゃう。だから「自分がやらなくてもいいんじゃない?」と思っちゃうんですよ。
それよりは一般にないものを引き出して、その良さを伝えていくほうが、自分としてはモチベーションが上がるんですよね。
さっき言った通り、70〜80年代のバンドアンサンブルが今は絶滅しているのに近いので、例えばそれで歌謡曲を作りたいと思うことはありますね。
機会はなかなかないですが。

斉藤 最近でモチベーションが高かった作品は?

古代 直近で言うと、やはり「世界樹IV」は良かったですね。
また「湾岸ミッドナイト」は、クラブシーンに幅があってふくよかな時代に、トランスやユーロの系統をやれたということで、自分的にはモチベーションが高かったですね。

斉藤 誰でもできることより、自分の個性が出せることをやりたい。

古代 そうですね。世に溢れている所にあえて突っ込む必要はないと思うんですよね。
どんなに良くても埋もれますから。

斉藤 世の中にあるものからちょっと変えたところに、
古代さんの個性が出ているんでしょうか。

古代 そうですね。
実際、ゲームの内容に合わせると絶対そうなるんですよ。
「湾岸」でも、まんまトランスで作っても絶対ダメなんです。
例えば、ブレイクでキックを抜いたりするのも(ゲームが盛り下がるということで)ご法度。「それをやれなかったらどうやって作るのか」と考えないといけない。
でも、やはり箱(クラブ)で聞けるような音にしたいと思いながら作る。
そうして考えていくうちに打開策が見えてきて、
それが結局オリジナリティになると思います。
ゲームの内容に合わせる、世界観に合わせることですね。


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