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強烈な個性が生きる集団 ベイシスケイプ設立10周年特別取材

その3:集団でありながら強烈な個性を出す


──それでは、崎元さんと岩田さんにお話をうかがいます。
ベイシスケイプでは複数人で作曲し、1人ディレクターが立つという形式をとることが多いそうですね。

崎元 作曲の分業を推奨しているわけではありませんが、分業ならではのメリットもあります。作曲家は発注される側ですが、逆の立場であるディレクションもやったほうがより良くなるのじゃないか、という考えがありました。現場の人にどれだけの自由度を与えて、どの方向に持っていくのかを、ディレクターが決めないといけない。それが結局は作曲の訓練にもなる。それが、こういう制度でやるようになった理由のひとつです。ただ、最初の頃は「何人かでやらないと間に合わない」という状況もありましたが(笑)

写真
崎元 仁
有限会社ベイシスケイプを自ら設立、代表取締役社長。
重厚なサウンドと壮大なスケールを感じさせる作品の数々は、国内にとどまらず、海外からも絶大なる支持を得ている。
<代表作>
伝説のオウガバトル(作編曲)
ファイナルファンタジーXII(作編曲)
戦場のヴァルキュリア シリーズ(作編曲)

──分業体制のほうが安定して制作できるのでしょうか?

崎元 いろんな角度から制作をとらえることができるし、確かに安定もします。
僕は元々、会社はやりたくなかったんですよ。でも、僕も岩田もフリーランスで10年間くらいやり、フリーでやれることはやり尽くした感があり、組織で仕事を回していく選択肢しかなくなった。そういった意味でも、分業は最初からの方針でした。
最初は3人だったわけで、うまくいっていたわけではなかったですよ。
すぐ大げんかで(笑)

岩田 崎元が仕事を持ってきて、自分の面倒も見つつ他の作家の指示を出すのは大変になってきて、それでピリピリして……。これ言っていいの?(笑)

写真
岩田 匡治
オーケストラサウンドから環境音までを駆使し、心に残る音世界の構築を心掛けている。
<代表作>
伝説のオウガバトル(作編曲)
バロック(作編曲)
ファイナルファンタジータクティクス(作編曲)

崎元 正直、最初はナメてましたね、さっき偉そうなこと言いましたが(笑)
「給料いくらにする?」とか「俺たちかっこいい!」みたいなことを言って(笑)
でも始めてみたら、すぐもめ事になるし、大変でした。
でも徐々に規模も大きくなり、形態も変わり、うまくいくようになってきました。

──ベイシスケイプさんは積極的に制作のほうにも食い込んでいると聞きましたが?

崎元 ゲームを作っている以上、企画に関わっていきたいんです。
ただリストをもらって曲だけ作るのではなく、積極的にゲームに関わりたい。
ゲームに限らず、映像作品でもそうだと思うんですが、こちらから提示をできることもある。僕たちはそれができると思います。

──ゲームのハードは昔から変わってきましたが、制作が変わったことは?

崎元 基本的に昔から大きな方針は変わっていないと思うんですね。
音楽のいい部分を出し、効果音のいい部分を出す。それぞれの得手・不得手ははっきりしているので、自分たちのアドバンスを生かして音を作っていこうという点は変わっていません。

──ファンと接するイベントが増えていますが、今後も積極的にされる予定ですか?

崎元 やりたいと思っています。

金子 イベントは、皆さんに楽しんでもらうというのもありますが、それ以上に自分たちがうれしいというのもあります。原動力になります。

崎元 受注仕事ばかりやっていると、反応がクライアントからしか来なくて、自分が作っているものを最終的に聞いてくれる人の姿が浮かびづらくなってしまう。そういう意味でもイベントはダイレクトに反応をいただけるのでいいと思います。
先日の「バロック」サントラ発売イベントも、よくあんなマニアックなのに来てくれたなぁと(笑)

岩田 マニアックな話題で、「こんなこと話しておもしろいですか?」って聞いちゃった(笑)

崎元 それにしても、ついにうちからバンドが出るなんて……。
さっきも岩田と話をしていて、「俺たちタンバリンかな?」とか(笑)

千葉 ツインタンバリンですか!(笑)

──サントラの発売にも力を入れていらっしゃいますね。

崎元 お客様とも接点を持ちたいという意味でも、CDを出したいというのはだいぶ前から考えていて、数年前に実現しました。聞いてくださる方と接点を持つということで責任も生まれますが、それが原動力になるし、自分たちの立ち位置を再確認できます。CD発売は、自前でやれば小規模でもできるので、昔のようにレーベル会社を通すより出しやすいですね。これからも出していきます。

──共同作業で個性を生かしつつ全体を統一するのは大変ですか?

岩田 昔、崎元と2人で仕事をする時は、2人で少しだけ話し合って適当にやっていましたが、今は誰かがディレクションを担当するので、昔よりうまくできているんじゃないでしょうか。

崎元 ディレクターが大枠を決め、その範囲内で自由にやってもらっています。
私が具体的に細かく指示をすることはほぼないですね。
クリエイターに自由度を与えておかないと、個性を発揮したり、必要とされていること以上の見せ場を出せません。

──ベイシスケイプにおける個性とは?

崎元 うちでは、集団で曲を書くこともあれば、1人でやることもある。作家個人の個性が必要なところなら1人で担当します。でも集団制作であっても、うちでは各作家が個性が出るようにやっています。
うちで作曲家を採用する基準は明確です。作曲技術は覚えればいいけど、その人が持っている気合いやオリジナリティ、何かを音で表現しようとする欲求は底上げできない。個性のエッジや表現する欲求を強力に持っている人を入れています。もちろん精神論的な部分だけでなく、音を聴いて選んでいますが。 どんなところにいても、集団で仕事をするわけで、強烈な個性は自分で出すしかないですよね。それを出せるような人間しかうちには入ってきていません。

──10周年ですが、今後やりたいことは?

崎元 手をつけている事は色々ありますが、きちんと形になってから発表していきたいと思っています(笑)
皆、バンドもやってくれて、新しい基軸で新しい音を自主的に作り出そうとしてくれてるのは、凄くいいことじゃないかなと思います。
これからもそう在りたいですね。

──これからますます個性派集団ベイシスケイプの活躍が楽しみです。
本日はありがとうございました!

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