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「植松伸夫の10ショート・ストーリーズ」について

その2:日々の遊びを反映させた曲たち


斉藤 仕事で制作する楽曲と正反対のものが生まれたわけですが、
「10ショート・ストーリーズ」の楽曲は
どのようなコンセプトやイメージで作られたんでしょう?

植松 ざっくり言えば妄想です(笑)
散歩をしながら道を歩いていて、
横断歩道の向こう側に犬を連れているおじさんがいるとします。

斉藤 はい。

植松 その犬をジーッと見つめていて目が合うと、
犬がパッと目を背けるんですよ。
「あっ、バレた!」みたいに。

これは面白いなと思って、そういう場面に遭遇した時には
「お前、宇宙人なんだろう!」とか思ってみたりしてね。

(一同、ドッと笑う)

そういう1人遊びを昔からよくやっていたんです(笑)
日々感じたことが歌詞やメロディになったりしたら面白いなと思って。

斉藤 作詞もすべてご自身でされていますよね?

植松 そうです。
文章を書くのも好きなので。

「10ショート・ストーリーズ」は、
言葉とメロディが一緒になった童話に近いものじゃないかな。
日ごろの僕の遊び方を歌詞にして音楽を一緒にするとなると、
自分で書くしかないですよね。

斉藤 普段は作詞はされていないのでしょうか。

植松 基本的にはほかの人にお願いしていますね。

お願いされて作る曲で作詞も作曲もやってしまうと、
自分だけの感性になってしまう。
言葉や音にはほかの人の感性が入るというのはいいことで、
僕の音をいろんな人が加わって広がっていってほしいんです。

斉藤 植松さんが最初に“やりたいようにやった”というのが、納得できました。
そうなるとかなりプライベートに近い作品といういうことですよね。

植松 そうですね。
みんなもしかしたら仕事で作るより、
プライベートで作ったほうがいい曲になることもあるのかもしれないね。

思うままに作ったと言いましたが、自分の中では同じなんですよ。
普段作っている曲も、「10ショート・ストーリーズ」の曲も同じではないけど、
同じように一生懸命作ってます。

斉藤 曲を作っている段階で、行き詰ったことはありますか?

植松 ないない(キッパリ)。
お願いされて作るものは悩むことはありますけど、
今回のは鼻歌みたいなものだから(笑)。

斉藤 植松さんが自由に作っている一方で、
お仕事では、ルールができあがっていて
自由に作れないコンテンツが多い気がします。

ゲームに限らず、昔は作りたいものを作るという
環境があったような気がするんです。
今はピンポイントで商品を作りにいっているような……。

そうしないとボツになるっていうのはわかるんですけど、
受け手にはそういうのが窮屈だと感じてしまうこともあったりして。

植松 やっぱりわかっちゃうんだよねぇ。

創作物全般、冒険ができないんだよきっと。
若い人たちが創造性を発揮してもらえる
チャンスっていうのが少ない気がするな。