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強烈な個性が生きる集団 ベイシスケイプ設立10周年特別取材

その2:「縁の下の力持ち」──マスタリング&効果音部隊


──続いて、マスタリングや効果音についてお聞かせください。

金子 私は基本的には効果音部隊ですが、マスタリングや曲に食い込んだところまでやっています。ベイシスケイプではできるだけゲームサウンド全般を制作する形をとっていますが、例えるなら、作曲者が料理を作り、自分たちが付け合わせを作りつつ盛り付けるような感じでしょうか。

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金子 昌晃
効果音作成からMA、マニピュレート、ミックス、マスタリング等、作曲以外を担当。
<代表作>
「タクティクスオウガ 運命の輪」(効果音、ミックス)
「朧村正」(効果音、サウンドディレクション)
ベイシスケイプレコーズのサウンドトラック全般(マスタリング)

浜野 私はどちらかと言うと効果音専門ですね。

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浜野 真衣
2010年入社。主に効果音の制作を担当。
自分らしくかつ心地いい音作りを心がけている。
<代表作>
「グランナイツヒストリー」(効果音)
「アクセルナイツ」(効果音)
「戦場のヴァルキュリア3」(効果音)

金子 ベイシスケイプでは、曲と効果音を別に作るのではなく、互いに食い込んだ形でサウンド全般を制作しています。どちらか一方が主張するのではなく、効果音と曲を組み合わせつつ最大の効果が出るように互いに相談できること、その解決方法が多様なのが特徴だと思います。
また、ゲーム制作者側にもできるだけ食い込んで、「曲をどこでどのように使うか」という部分も含めて調整をしています。
マスタリングについては、聞く環境に合わせて聞きやすいようにしています。声があるゲームか、効果音がどれくらい鳴るかなどを考え、音がかぶって聞こえづらくならないようにします。

──作曲家から見て、そういうポジションの方がいるというのはいかがですか?

千葉 オケ曲は特に、携帯機で鳴らすと全然聞こえなかったりするのが、金子にマスタリングしてもらったものだと聞こえるようになります。

工藤 何人かで作曲する場合、音楽的な幅以上に音質的な幅がある。それをうまくなだらかにしてくれます。ひとりひとりの作家の個性を出しつつ、まとまったものを作るというのが、集団で作るうえでの大きなメリットですが、その点で助かっています。
「朧村正」は複数の作曲家で担当していて、メインテーマは崎元ですが、他の曲は他の曲で各作家のテイストが出ている。それぞれの作家の持ち味や全体としてのヴァリエーションを、聴いてくださった方が良いと思ってくれれば嬉しいですね。

金子 うちで、皆が1つのタイトルに関わるスタイルを大々的にとったのは「オプーナ」が最初だと思います。崎元のメインテーマがあって、それを全員でアレンジするスタイルで、皆同じ風になってしまわないかという心配もあったのですが、実際は振れ幅が出た。その後もそのようなスタイルが定着しましたね。
うちでは、作品によってディレクターを立てるようにしています。「グランナイツヒストリー」なら金田、「朧村正 音楽集 変奏ノ幕」なら工藤など、それぞれのディレクターのテイストが出ている。以前はベイシスケイプといえば○○系、というイメージがあったと思うんですが、10年経った今は、各メンバーのテイストが生かされた、様々なタイプの曲が提供できているのではないかと思います。

──効果音制作ではどのようなところに苦労されますか?

金子 近年は曲も効果音も物量勝負のようになってきていて、効果音は1つのゲームで最低でも100個、多いと数千はあります。作ることの大変さより、どう鳴らすか、どう聞かせるかが難しくなってきていますね。

浜野 リストアップされて発注される場合はいいですが、お任せの発注の場合、ひたすらゲームをやって、自分でリストを作っていかないといけないので、倍以上時間がかかります。

金子 効果音CDの素材を加工したり、実際に録音したりして、組み合わせたりして作ります。実際の音を録っても、単体で聞くと分かりづらいことが良くあるので、過演出になりすぎないように素材を足すなどして加工することが多いですね。
効果音の数が100程度ならまだ聞き分けられるけど、1000を超えると聞いても何の音かわからなくなりがちです。少なくとも、何の音かわかるようにはしたいと思っています。また、ある瞬間に曲や効果音がたくさん鳴ると、何がなんだか分からなくなってしまう。そうならないように、音を削るなど、鳴らし方を考えることに時間を費やしていますね。

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