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作曲者がゲームをプレイすることでシーンにあった名曲が生まれてくる

― いろんな意味でかなり楽曲制作でのご苦労があったんですね。

川越  4章で実装された「You and Me」の発注もたしか「『I miss you baby』を超えろ!」
という……。

加藤  ザックリした発注でしたよね。でも「You and Me」はすんなりとできたんですよ。最初に作ったものからほとんど変わってないです。

川越  すでに自分たちがゲームをプレイしていたからというのもあったかもしれませんね。リリースしてから、加藤のユーザーランクがみるみる上がっていくのを目の当たりにしていましたから(笑)。

下田  こちらではゲームの展開にあわせて曲の盛り上がりの時間を計算しているんですけど、加藤さんが上げてきてくれたのは、こちらが提示したものよりさらに盛り上がるタイミング調整がなされていたんです。それで「ああ、ゲームを遊び込んでいるな」って。

― プレイしているからこそならではですね。ところで「You and Me」が追加発注ということは、最初はどこまで曲を作ってたんですか?

加藤  最初は3章まで(リリース当初のストーリー)の楽曲を制作しました。サントラでいうところの1〜9トラックまで?

下田  加えて11トラック目ですね。ラスボス曲すらない状態でした。最初はその10曲程度しかなかったので、いかに曲をやりくりするかで頭を悩ませましたね。「Eternity」を流してみたり、効果音を鳴らしてみたりとか。

― いまでこそたくさん曲数のある『消滅都市』ですが、そのころはまだ曲数が少なかったでんすね。

下田  単純に制作期間が短かったんですよ(苦笑)。ゲーム全体の開発期間で半年、サウンドだけだとどれくらいでしたっけ?

加藤  3、4ヶ月くらいでしたかね。たしか作業が年明けてからでしたから(※リリース日は2014年5月26日)。

下田  出す時期は決まっていてそこに向けて走っていく中で、すべてがマスターピースである必要最小限の楽曲がその10曲ということです。

川越  リリース直後はダウンロードの容量制限もあったため、サウンドのサイズもなるべく小さくするよう気にかけていましたよね。そこがまたゲーム音楽ライクというか、制限のある中での曲作りというのが最近ではなかったことですので、低いサンプリングレートでもちゃんと聴かせるものにするとか、効果音なら元の素材は少なくてもプログラム的にバリエーションを増やすとか工夫をしました。ボイスもかなり少ないですよね。

竹内  少ないですね。タクヤとユキの声は、リリース時ほぼそのままですもん。

下田  ユキ役の花澤香菜さんだけは一回追加で録りましたよね。

川越  タクヤ役の杉田(智和)さん、待ってるんじゃないですかね(笑)。

下田  そこはドラマCDで補完していただいて(笑)。ドラマCDで初めて長い尺でしゃべっていただいて、タクヤってこんなキャラクターなんだってことがわかってもらえたと思っています。それ以前の収録でも、すごく台本を読み込んできてくださったんだろうな、というのが伝わってきていて、本当に素晴らしかったです。

川越  あと追加発注という話をするなら、僕らの中で“インフレ化”って呼んでいるんですけど、曲作りが頭打ちになった時期があったんですよね。

加藤  そうそう。これ以上どう盛り上げていいかって悩んだ時期があったんです。たとえば「Overloud」は、インフレが過ぎてなにをしたらいいのかがわからなくなっている時期で。ある意味消去法で出てきた曲なので、これだけ他の4つ打ち系の曲とちょっとビートが違うんです。

下田  インフレ化、本当に苦労しましたね。「I miss you baby」から「You and Me」でアッパー感が一段階上がってましたから、この次の追加曲はさらにたいへんだぞ、と思った記憶があります。ですから、5章の曲はかなり難産でしたよね。

川越  僕の隣の席で加藤がずーっと悩んでいて、一日中キーボードの前にいたけどなにも作業が進まなかった、なんてこともありました。

下田  でもその結果生まれたのが、最初に少し話しましたが「Stay with Me」という曲です。これは本当にすごくて、特に歌詞の内容がすごい。SAK.さんが書いてくださったわけですけど、歌詞の内容に気付いてからは、それがその後のゲームの重要なキーワードになりました。

加藤  マニアックですが(ゲーム中の)30話は曲と演出のシンクロ具合が素晴らしいと思います。


下田氏の「こうしたい!」という熱量が
周囲を動かして曲となっていく



― 曲と演出のシンクロ具合というお話が出ましたが、僕もゲームとBGMの密接度にすごくこだわりのある印象を受けます。ボス出現時には自分との力関係が表現されて、その緊張感を煽るような曲が流れだす。他にも、異質なシーンでは歪んだ曲が流れたりして、ぐっとゲームに集中できています。

川越  曲を活かすも殺すも使い方次第じゃないですか。その点、『消滅都市』はどのタイミングでどの曲が流れるかが、とても秀逸ですよね。

下田  たいてい、自分がフワッとしたオーダーをするんですよ。「……(ゲームのテンポやスクロールスピードなどに対して)なんか遅いっすね」みたいに。そうするとゲームも音楽も両方がわかる竹内が通訳して、ノイジークロークさんに伝えてくれるという(笑)。

川越  ゲーム体験の中でのサウンドというのがすごく整理されているからこそ、音楽だけを切り取っても皆さんに楽しんでいただけるんですよね。音楽を聞いてシーンを思い出せるというか。サウンド面で僕が特にすごいなと思うのは、効果音、BGM、ボイスといった“全部の音”がちゃんと聴き分けられることですね。しかも、奥行きが表現されているのがまたスゴイ。『消滅都市』がリリースされた約1年半前にここまでやっているタイトルはなかったと思います。

竹内  下田からのお題はシンプルでしたけどね。「全部を聴かせたい」って(笑)。

加藤  最初にプレイしたときは「BGMの音でかっ!」と思ったんですが(笑)。でもプレイを始めると、声も効果音もかき消されずにちゃんと聞こえてくるのにビックリしました。

竹内  最初は普通のバランスで渡したんですけど、下田が一言「音が小さい!」と。具体的には、BGMと効果音のそれぞれがよくなる周波数帯を増減して、少しでも聴こえるバランスに調整したんです。

下田  ……言ったけど、できるとは思わなかった(ポツリと)。

(一同爆笑)

― ゲームをプレイしながら音楽とすり合わせていくというのは、どっちにとっても幸せなことですね。

川越  パッと音が消える“無音”の使い方もお上手ですよね。そういったところって、ずっとこだわりがあるんですか?

下田  そうですね。自分が初めて業界に入ったのがスクウェア・エニックスだったんですが、上司が『半熟英雄』など制作された時田貴司さんだったんです。彼はあまりチェックが厳しいタイプの上司ではなかったのですが、曲を鳴らすタイミングにはすごく厳しいんですよね。それがすごく勉強になったし、時田さんが植松(伸夫)さんにリテイクを出すときにどういう指摘をするのかといったことを間近で見られたのは肥やしになりました。

川越  あと、普通のゲーム音楽じゃないところを目指そうね、という話はしていましたね。

下田  加藤さんにお願いするときに「ゲーム音楽はイヤですね」という話はしましたね。

加藤  そうですね、最初はそれでしたね。

下田  個人的な趣味としてゲーム音楽は大好きなんですけど、 “ゲーム音楽感”というような空気感がまとわりついている曲が多いんですよね。この空気感も、それはそれで様式美だと思うんですが、そこにハマってしまうとまったく進化がない。それではほかの多くのゲームとは戦えないですし。

川越  『消滅都市』って途中から悪ノリとしか思えないほどに曲調の幅が広がっていったじゃないですか。下田さんがおっしゃるように“ゲーム音楽”を意識し過ぎていたら、こうした広がりはなかったかもしれませんね。

下田  もちろん、お客さまが期待してよろこんでくださった結果でもあります。スマホゲームを作っていると「曲を作っているヒマがあったらイベント増やせ!」とか言われることがあるんですが、『消滅都市』に限っては、そういったご意見は皆無です。出した分だけ喜んでいただけている。こういった結果を受けて、『消滅都市』の曲が、この先のゲーム音楽のスタンダードの一つになれればいいですよね。

― タイトル画面で「音を出してプレイするのがオススメです」とのメッセージが表示されますが、それもそういった意識の現れでしょうか?

下田  あれはプロデューサーの澤(智明氏)の発案なんです。ちょっと押し付けっぽいかな、とも思ったんですけど、音があるとないとではゲーム体験が全然違うことはわかっていましたから。だったら少しうっとおしく思われても、音を聞きながらプレイしてほしいんです。

川越  実はあのメッセージのことを事前に聞かされていなかったんです。リリースの日にグリーさんと別件で打ち合わせがあって、ミーティング前に初めてゲームを起動したらあのメッセージですよ。(グリーのある)六本木ヒルズの前で「マジか!」って叫びました(笑)。超うれしかったです。

加藤  当然僕もメッセージのことは知らされてなかったので、すごくうれしくて。

下田  意識だけではなくて、開発工数としても多くを割いていますし、音に対してはチーム一丸で力を入れていますね。とはいえ携帯端末ですから、どんな状況で音を鳴らすかはわかりません。まずは本体のスピーカーで聞いてもいい曲だなとわかってもらえるチューニングを目指しました。ときには端末をテーブルに置いた状態で曲を再生して「こうやって聞こえるのか」と確認したり。スピーカーで聞いていい曲だと感じてもらえれば、イヤホンで聞いてもらえる可能性も上がりますしね。

川越  メッセージと言えば、今回CD版サントラを発売するにあたり、下田さんがゲーム内の「お知らせ」でサントラ収録曲の全曲解説をしてくださったんですよ。これもなにも知らされてなかったのでビックリしました。「なんだか縦に長いなあ、今日のお知らせ」って思って画面をスクロールしていたら、下田さんの全曲解説コーナーが始まって。18曲目の「Reborn」については、「4章で使用されるボス曲。3章までよりインフレを! という無茶な依頼に対し、加藤さんが打ち返してきたのはまさかのジュリアナテクノだった」とか、ざっくばらんな解説があって。

(一同笑)

加藤  僕はジュリアナテクノだとあまり思ってないんですよね。

下田  ベタベタではないですよね。

加藤  扇子を振ってお立ち台、みたいな感じではないと思います。

― 僕が初めてこの曲を聞いたのが、タカオ(イベントに出てくる強烈なキャラクター)だったので、すごくそのイメージが付いちゃって。最初はこのキャラのために書き下ろしたのかと思ってしまいました。

(一同爆笑)

下田  プレイヤーによって一番最初に聴くシーンが違うので、そういうのってあると思います(笑)。


ほかのどのゲームにも負けない
サウンドを目指して



― こうしてお話を伺っていると、みなさん距離感が近いというか、仲がいいですよね。

川越  そうですね(笑)。もちろん、お仕事での付き合いが密というのもあるんですが、一番距離感が縮まったのは東京ゲームショウ 2014で、下田さん、加藤、蛭子、私の4人でトークショーをやったんですが、その前に「打ち合わせをしよう」ということで集まったら、音楽談義に花が咲いてあっという間に終電の時間でした(笑)。もちろん打ち合わせはほとんど進みませんでした。

(一同笑)


東京ゲームショウ 2014 トークショーの模様

下田  サウンドもそうですし、ゲーム全体のチームとしても仲が良いという自負はあります。メンバーの多くが「こうしたほうがいいんじゃないか?」と積極的に提案をくれますし。実は「I miss you baby (Music Box Version)」を作ったほうがいいといいだしたのはエンジニアのひとりなんですよ。彼は『消滅都市』というタイトルの名付け親でもあるのですが、ある日僕のところにやってきて「オルゴールバージョンは絶対あったほうがいいですよ」って。スタッフ全員が積極的に曲を活かそうと動くので、僕は「まだこの曲を出すのが早い」という感じで門番役になっているくらいです。

― 東京ゲームショウと言えば、次の年のゲームショウでは加藤さん、川越さん、ボーカリストのSAK.さんとでDJステージも行われましたね。

加藤  全部で18回やりましたけど、楽しかったですね。

川越  回を増すごとにお客さんが増えて、僕らの目の前で拳を振り上げたり、中には泣いている方がいらっしゃって感動しましたね。

加藤  こういった試みは今後もちょくちょくやると思いますし、もっと楽しんでいただける仕掛けを作るよう頑張ります。




― 楽しみにしています! では、お時間も迫ってまいりました。最後に、みなさんのお気に入りの一曲をお聞かせください。

加藤  「Flashback」か「Avalon」か……1曲に絞り切れないんですよね。両方気に入っているので。実はまだどこにも出していないんですけど、この2曲をまぜたマッシュアップ曲があるんですよ。

― それはいつかぜひ聞きたいですね!

下田  「Flashback」は冒頭のドラムのフィルインがカッコイイんですよ。なのでチームメンバーは、どのタイミングで曲を開始すれば、フィルインがよいタイミングで鳴るか、ということにすごくこだわってます。

竹内  僕は、ライナーにも書いたんですけど「I miss you baby」ですかね。とにかく何度も作り直したので(笑)。真面目な話、ゲームのコアとなるステージがどういうふうになるのかを探る曲だったので、最初にお願いしながらも完成までの道のりがかなり長かったですからね。ここまでテイクを重ねたのは自分のキャリアの中でも初めてかもしれない。その甲斐あってか、人気の曲になってくれたのが特にうれしいですね。

川越  僕は「世界の終わりと最後の言葉」です。『消滅都市』では初めて詞とボーカルがマルッと入った曲ですので。しっとりとした歌ものが裏世界のメニュー画面として流れるインパクトたるや、ですね。下田さんの歌詞をエミ・エヴァンスさんが歌いあげてくださってるのもステキです。

下田  これは僕が「EternityにはAメロと歌詞があるんですよね?」と、試しに言ってみたことに端を発して生まれた曲ですもんね。そうして自分の願望を口にして曲ができることもあるんですけど、実際に完成するまでは長い戦いでした(笑)。ちなみに歌詞は、言葉で描かれた風景写真を何枚も重ねていく、という手法で書いています。

川越  そんな下田さんのナンバーワン曲は?

下田  開発とともにどんどん移り変わっていくんですけど、いまは「You and Me (Reprise)」なんですよ。これが流れるシーンは自分でもとてもうまくできた自信があるので、それを超えるためのことを考えるための手がかりにしています。曲の完成には偶然性もあると思うんですけど、どんな方向性がマッチするかは自分の中でしっかり持っておかなければなりませんから。

川越  「You and Me (Reprise)」が使われているストーリーを配信されたときに、ゲーム中でも「一区切り感がある」というコメントを出されてましたね。それがすごく珍しいし、印象的でした。

― ありがとうございます。これからどんなゲームの展開、そして楽曲が聴けるのかを楽しみにしています。

下田  今は、『消滅都市』サウンドチームが、この先どの方向に向かっていくべきなのかというディスカッションをしています。具体的なことはまだ決まっていませんが、いままでのゲームになかった展開……“旅”を続けていくことになると思いますので、どうぞ注目していてください。ほかのどのゲームのサウンドにも負けたくないし、負けません。





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▼配信版『消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1 / vol.2』楽曲解説特設サイト
http://www.noisycroakrecords.com/special/syometsu_toshi/home.html

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