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これまでのゲーム音楽の殻を打ち破りたい『消滅都市』サウンドに込められた熱い想い


ライター:馬波レイ インタビュアー:馬波レイ、斉藤健二(2083) 撮影:中村ユタカ

 シンプルにして爽快な操作性と緻密なストーリー、そしてアッパーなダンスミュージックを中心としたサウンドで人気のスマホアプリ『消滅都市』。そのサウンドトラックCDが2015年11月25日に発売となりました。ゲームをプレイしている方ならおわかりでしょうが、『消滅都市』は非常に音にこだわりをもって制作・運営がなされています。
 そこで今回の特集は少し趣向を変えて、グリーからゲーム全体のディレクションを担当する下田翔大氏と、サウンドディレクションを担う竹内雅樹氏。そして、ノイジークロークから楽曲制作を担当した加藤浩義氏、川越康弘氏にご登場いただき、クロストーク形式でお届けします。それぞれのサウンドに対する熱いこだわりはもちろん、『消滅都市』サウンドチームの意思統一がいかにして形成されていったかがわかる、非常に興味深い内容となりました。もちろん、サウンドトラックの魅力について、たっぷりと語っていただきました!

下田 翔大 プロフィール
Shota Shimoda Profile

ゲームデザイナー兼シナリオライター。スクウェア・エニックスで半熟英雄、ファイナルファンタジー12、ディシディアファイナルファンタジーなどに携わり、ゲームデザイン、世界観設定、シナリオ、演出、AI設計などを手がける。現在はグリー株式会社 Wright Flyer Studios部に所属し、消滅都市においてゲームデザインとメインシナリオの執筆、演出などを手がけている。


竹内 雅樹 プロフィール
Masaki Takeuchi Profile

株式会社コナミデジタルエンタテインメントにて、サウンド制作部門に入社し、家庭用タイトルに複数携わる。 その後、CD制作部門にてディレクター、モバイル・PC 向けオンラインゲーム部門のサウンドマネージャーを経て、2012年にグリー株式会社に入社。現在は、「消滅都市」等、ネイティブゲーム全般のサウンドディレクション、制作に従事。グリー株式会社Japan Game事業本部Art部所属。Soundチームマネージャー兼リードサウンドアーティスト。


加藤 浩義 プロフィール
Hiroyoshi Kato Profile

株式会社ノイジークローク執行役員兼作曲家。『DanceDanceRevolution』シリーズ、『龍が如く』シリーズなどで楽曲制作を担当。ダンス、クラブ系やデジタルロックなどアッパーな楽曲を得意とする。過去には浜崎あゆみのリミックスや小柳ゆきのアルバムでの作曲・編曲などの経験もある。「沖縄ゲームタクト2014」「東京ゲームショウ2015」など、近年ではDJパフォーマンスを披露する機会も増えている。


川越 康弘 プロフィール
Yasuhiro Kawagoe Profile

株式会社ノイジークローク制作本部長としてサウンドプロデュース、ディレクション、作曲などを行う。代表作に『ポケモン不思議のダンジョン 〜マグナゲートと∞迷宮〜』、『消滅都市』など。オーケストラをはじめとするアコースティックなサウンドを得意としつつ、「まだ誰も聞いたことのない音」を目指して音楽機材をいじっている時間が至福のとき。『消滅都市』のゲーム内アカウントは「消滅都市の作曲者B」。ランキングの点数で「消滅都市の作曲者A」こと加藤浩義に追いつくことを当面の目標としている。



サントラはゲームの記憶をたどる
78分間の“音楽の旅”



― 本日はよろしくお願いします。今回は『消滅都市』サウンドチームへの取材ということで、作曲者だけではなく曲を発注する側の方にもご同席いただきました。早速サウンドトラックについてお伺いしていきます。そもそもサントラCDを出そうという経緯はどこから出てきたのでしょう。

川越  配信版がご好評をいただいたので、僕らとしては引き続きCD版も手がけていくものだと思っていたんですね。そしたらある日、僕らが親しみをこめて“姐さん”と呼んでいるグリーの担当者さんから電話がありまして「他のレーベルからもサントラCD化の話が来ている。ノイジークロークからサントラを出すなら本気でやってほしい」とおっしゃるわけですよ。とにかくビックリして翌週に資料をまとめて、姐さんの元に駆けつけました。結果的にうちからサントラが出せたわけですが、ホントに目の覚める思いで制作に臨みました。

― どのような仕上がり具合でしょうか?

下田  仕事で何度も聴いたんですけど、それでもまた聞きたくなる。このサウンドトラックを聴いている時間は“78分の旅”という気がします。このゲームを遊んでくださった方は、きっと同じ気持ちになってくれると思います。記憶の中にある情景が流れていくように曲がつながっているんですよね。

川越  ゲーム音楽のサントラというと、曲が何ループかしてフェードアウトというのが通常のパターンですし、配信版の『消滅都市 オリジナルサウンドトラック vol.1 / vol.2』ではその手法を採用していますけど、CD版はすべての曲に“アウトロ”、つまりエンディング部分を加えているんですよ。

下田  ノイジークロークさんには「1.5ループでお願いします」とおねがいしました。正確にいうと“1ループ+新曲0.5”で、次の曲への橋渡しとなる0.5のエンディングを作ってください、と。

川越  ゲーム的なところから少し離れて、『消滅都市』というひとつのコンテンツの音楽としてはこのほうがいいだろう、と顔を突き合わせながら曲の尺やアレンジを決めた感じですね。ゲームサントラとしては珍しい作り方じゃないかと思います。裏コンセプトとしては“下田さんが聴きたいサントラを作ろう”でした(笑)。

加藤  加えて今回は、ゲームに実装されているデータそのままをサントラCDにするのではなく、ほとんどの曲で微妙にバランスを変えたりミックスをし直したりしているんです。

川越  それを行なったことで「オリジナルサウンドトラック」と銘打っていいのか、という議論が社内で起こりましたが、ある意味、ゲームに実装されているものが、「サントラから切り出されたバージョン」と考えてもらってもいいかもしれませんね。あと僕としては、竹内さんの曲が入っているのがうれしいんですよね。

竹内  (照れ笑いしながら)「Nostalgia」ですよね。あれはクリスマスイベントを週明けに開催するので、そのための新曲がほしいというのを金曜日に言われまして。さすがにそれでノイジークロークさんにお願いするのは申し訳なかったので「土日で自分が作ります」となったんです。

下田  15秒でいいから、と無理にお願いしました。でもその曲をスタッフが気に入ってほかのイベントでも使うようになったんですよ。いまだに曲のファイル名は「クリスマス」なのに(笑)。

川越  最初にクリスマスのイベントで聴いたときは「僕らの作った曲じゃない」ってことでショックもあったんですけど、聴いてみたらすごくいい曲で。「なにか、スタンダード曲のアレンジバージョンかな?」と。後日の打ち合わせで、竹内さんに「あの曲はどうしたんですか?」って訊いたら、申し訳無さそうな顔で「自分が作りました……」っておっしゃられて。まさか竹内さんが作曲されたとは思わなかったので、とても驚きました。サントラの制作過程で、容量的に限界が近かったので、「どれか曲を削ろうか?」みたいな話もあったんですけど、最終的にはすべての曲が収録できてよかったです。

加藤  メールのやりとりを見返すと、CD1枚に収めるために秒単位で曲の長さを調整していました。1秒でも稼ぐために複数の曲を繋げるって案もありましたよね。

下田  メドレーにするのは最終手段として案を出しましたが、この案を採用せずに尺を収めることができて安心しました。自分としては、CDが2枚組になるのがいやだったんですよ。このサントラは『消滅都市』の“今”を切り取ったものだとも思っているので、2枚組になってしまうとダレてしまうと感じました。アウトロを全曲に付けた効果もあってか、CDの容量ギリギリですけど、「あ、もう1曲終わり?」みたいに急いでいる感じもないんですよね。

― ちなみに曲名はどなたが考えているんでしょう?

加藤  基本作曲者が考えていますね。サントラ配信にあたって下田さんから「曲名をください」と言われてゲームの展開にあわせた曲名を川越と考えて提出したんですけど……。

川越  総ボツでしたね。「ダサッ!」のひとことで。

(一同爆笑)

下田  “BOSS BATTLE 1”みたいな、ゲーム音楽っぽいのがいやだったんですよ。ボスとのバトルの曲だからこのネーミングなんでしょ? というのがいやだったので、純粋に「楽曲としてのタイトル」をつけてほしいとリテイクをしました。

川越  リザルト画面で使われている「Fragment」は、最初下田さんの好きなレディオヘッドの曲の一節から「this is what you get」って名付けようとしたんですけど、見事にバレて突き返されましたね(笑)。

加藤  ゲームの印象から離れろというオーダーでしたけど、「Eternity」だけはどうしても離れることができなくて、すごく悩みましたね。最初は「Lost」としていたんですけど、「Eternity」でよかったと思います。

川越  気づいたら短い単語でまとめようというコンセンサスが加藤との間にできていましたね。

加藤  歌詞のある曲以外では、1単語でいきたいと思っていて、そうなっているはずです。

― では、歌詞のある曲は?

加藤  印象的な部分の歌詞がそのままタイトルになっているはずです。「Stay with Me」はボーカルを担当してくれているSAK.さんが歌詞も考えてくれたんです。彼女もゲームを遊んでいてくれて、そこから受けた印象が歌詞の元になっていると聞いています。


『消滅都市』の音楽は、どうやって生まれたのか


― 少し、製作当初のお話をお伺いしたいと思います。まず『消滅都市』の音楽は、どういったオファーがあって今の形に辿り着いたのでしょう?

下田  はじめはなんでしたっけ? というか、そもそも(ゲームの)中身が今とは違っていたでんすよね。

竹内  うん。中身が違っていたころから川越さんには軽くお話をしていて。ノイジークロークさんとは『消滅都市』以前からお付き合いがあって、そのときの中身としてもノイジークロークさんがいいかなと、お声がけをさせてもらっていました。

下田  最初の企画だと王道ファンタジー感のあるRPGだったんです。盤面上のキャラクターを操作してバトルをするような戦術的なものでしたね。ノイジークロークさんの中ではいとうけいすけさんの曲がハマりそうな。

竹内  そういった話を一度差し上げてから、しばらくしたら下田から「ゲーム内容がかわりました!」と聞かされまして(笑)。そこできちんとゲーム内の曲をどういう方向性にしようかという話し合いがありました。それを詰めていったところで、加藤さんに一度サンプルを作っていただいたんですね。

加藤  30秒くらいのサンプルを制作しました。今のエレクトロの曲調に近いものだったと思います。

川越  それは何かの曲の原型になっていたり?

加藤  いや、原型にはなってないですね。ただ、冒頭にサンプリングボーカルが入っていたのと4つ打ちダンスビートだったので、方向性は近いものはありますね。

――どういった経緯でエレクトロなサウンドになったのでしょう。

下田  自分はすごい田舎者なんですけど(照れ笑い)、初めて東京に出てきたときに見た“キラキラしてカッコイイ東京”を表現したかったんですよね。海外の人が日本に来て見るローマ字の“TOKYO”とでもいうか。

川越  今っぽさみたいな?

下田  時代の最先端をいこうとか、流行りのEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)にしようとか、そんなイメージではなかったです。今っぽさはあまり意識せず、ダサくなってもいいから自分の中での東京感を大事にしてきました。

― なるほど。でも「Eternity」はゲーム中のほかの楽曲とはまったく趣が異なりますが、それはどうしてでしょう?

加藤  まず「Eternity」の最初のテイクは、シンセが多く鳴っていて、雰囲気自体はゆるくて暗くて、という感じでした。“喪失感”がキーワードだったと記憶しています。ほかのエレクトロな曲と合わせる感じで出したんですね。シンセのアルペジオが淡々と鳴っている感じでした。それに、もともとイベント曲のひとつとして作っていたので、タイトル曲として使われるとは思っていなかったんですよ。

― それは意外です!

川越  ピアノ一本となったのは下田さんからのアイデアでしたっけ?

下田  そうですね。ただタイトルで使えたらなとは思っていたんですよ。

加藤  でもタイトルの画像すらなかったんですよね。

下田  まだ、そんな時期ですね。同時進行していた「I miss you baby」の方向性が固まり始めた頃だったので、相対的にと言うか、「ピアノ曲なんじゃないですかね?」というインスピレーションが沸いたんだと思います。

加藤  ちなみに「アコースティック寄りなのか」「エレクトロで全体を通していくのか」というような楽曲のジャンルの方向性や幅感みたいなのも、一曲一曲作りながら、ゲーム画面にあてながら、プレイ感を確かめながら固めていった感じです。なので、エレクトロで全曲収めるでもなく、ちゃんとそれぞれが場面に合う形で、かつ最終的に統一感が見えることを意識して、最終的な音が組み合わさっていっています。

下田  「Eternity」に話を戻しますが……これはビックリするくらいの豪速球でしたね。

加藤  僕はちっとも豪速球のつもりはなかったんですけどねえ(笑)。

川越  完成するまで20分くらいでしたっけ?

加藤  そうですね。作り終えたのを社内で聴かせても特に反応もなく。

下田  こちらとしても「絶対外さないよう感動曲をお願いします!」と言ったわけでもなく、先ほども言ったようにタイトルに使えたらな、くらいの温度だったんですよ。ですけど、飛んできたボールの球筋がやばかった。

(一同爆笑)

加藤  サントラのライナーノーツでも書いてるんですけど、そんなに渾身の曲ではないんですよねえ(笑)。

― いい意味で力が抜けてスッとできたということかもしれませんね。ゲームのタイトル曲ってそうやってできあがるパターンが多いと聞きます。

下田  いいメロディってそういう風にしか出ないのかもしれないですね。「いいものにしよう」という下心があるとダメになる。

川越  産みの苦しみといえば、加藤が僕の隣の席でずーっと天井を見つめながら苦しんでいたのを覚えています(笑)。すっと出てきたものもあれば、そうやって難産の末、生まれた曲もありますよね。

加藤  あとは提出していない曲もたくさんあります。

川越  裏事情なんですけど、僕はあとから制作に加わったんですよ。最初は加藤が全曲を書こうということだったんですが、リリースまでの期間が短く、それと「I miss you baby」という曲を作るための、作業量の“重み”があったので、途中から手分けして僕がイベント曲を手掛けることになったんです。普段の加藤は作業のペースがめちゃめちゃ早いし、多作な作家なんですが、珍しくかなり悩んでいたのを覚えています。

加藤  もう一つの裏事情としては、作業の時期と『沖縄ゲームタクト』とが被っていたってのもあります。あのイベントはノイジークロークで運営をしていたんですけど、宿泊先のホテルで曲を作ってましたからね。

川越  そうだ! ホテルでアコギを入れてましたよね。

竹内  僕はそれを蛭子さん(蛭子一郎氏。ノイジークロークのサウンドデザイナー。消滅都市の効果音を担当している)から聞いてましたね。「急ぎの修正があるんですが……」と連絡をしたら「加藤のほうが沖縄に行っていまして」と言われて。

(一同爆笑)

川越  その電話も覚えてますよ。タクシーの車内で電話を切った加藤さんが「……アコギ入れろって」ってぼそりとつぶやいて(笑)。そういえば、なぜアコギを入れようということになったんですか?

竹内  その段階で完成していたのがEDMっぽい曲だったんですけど、ステージ曲だったので疾走感がもうちょっとほしかったんですよね。

下田  ゲーム画面にはめ込みながら調整をしていた時期ですよね。

竹内  ですね。曲だけで気持ちいいのではなく、ゲームとシンクロするスピード感など、より画面にあう音を探っていたんです。その中の手法のひとつでアコギをオーダーしました。


⇒【後編】作曲者がゲームをプレイすることでシーンにあった名曲が生まれてくる



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