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―― 今回、コンサートの司会は紺野あさ美さんですが、どういう経緯でお願いすることになったんですか?

泉志谷 僕の大学の同級生だったんです。ゲームがお好きとのことなので、ぜひお願いしたいとお声がけしました。やっぱり同年代の人がいいですよね。ゲームがお好きで、なおかつ知的で、オーケストラのことも語れて。彼女は大学で、文化の授業もしっかり取っていたんですよ。

―― そういった意味では、すごく適任な方ですね。ゲーム音楽コンサートの司会は、ゲームを好きな方が担当していただいたほうが嬉しいですし。

泉志谷 はい。紺野さんはゲームがお好きで、なおかつオーケストラのことも分かってくれていて。ご縁もすごく重なったので、お願いする運びになりました。

今の日本のクラシック音楽業界には、演奏家が食べていけないとか、みんながクラシックのコンサートに行かないというような問題があるんです。でも、ゲーム音楽のコンサートは、演奏家が演奏する機会になるんですよ。紺野さんは、ゲーム音楽を音楽史に残していく意義や、演奏家がそれによって恩恵を得るといった、JAGMOの理念を深く理解してくれて、「応援したい」と言ってくれました。



―― 考えてみると、多くの若い人がオーケストラの演奏を聴きに集まるって意味では、ゲーム音楽のコンサートってすごいですよね。

泉志谷 そうなんです。クラシック音楽業界の人たちも、みんな今回のコンサートを喜んでくれていて。20代や30代くらいの若い人が聴きに来てくれるなら、最高の演奏をしたいと言って、みんな張り切ってます。日本のクラシック業界ってすごいんですよ。高度経済成長の時に、YAMAHAがピアノを普及させて音楽教室も普及したから、すごくレベルの高い教育がなされて。音楽大学もこんなに多いのは日本だけなんです。多くの日本人が国際的なコンクールもたくさん獲っているし。だから日本にはいい演奏家がたくさんいるんです。でも今、たくさんのオーケストラが赤字になってしまっている。JAGMOがその打開策になったらいいなと思っています。ゲーム音楽ももちろんなんですけど、やっぱり同じ音楽ですから。ゲーム音楽からクラシック音楽を好きになる人も出てきたらいいなと思うし。そういう意味でも大きなムーブメントにしたい。

―― すぎやまこういち先生もそういうお話をされていましたね。ゲーム音楽が、クラシック音楽の入口になってくれたらいいなという。

泉志谷 はい。まさにその通りです。僕の友人にもクラシックの音楽家がたくさんいるんですけど、どうか彼らの演奏を知ってほしいという気持ちもあります。あんなに命をかけて演奏する人たちですから……。自分の人生をすべて音楽に捧げて。そういう人たちの覚悟とか演奏って、やっぱりぜんぜん違いますからね。

―― JAGMOは、そういう演奏家を知ってもらうための入口にもなったらいいなということですね。

泉志谷 そうですね。ゲーム音楽を広げていく、ゲームの文化を浸透させていく、ということと、そういう本気の演奏家の人々を知ってほしいなと思います。僕も、彼らの演奏に感動した1人ですから。そういう人たちの魅力をどうか伝えたいという気持ちはすごくあります。

―― 全身全霊をかけて音楽に打ち込まれているんですね。

泉志谷 はい。彼らの心の美しさにはいつも心を打たれます。そういうものが自然と音楽に現れていくと思うんです。それがゲーム音楽と融合したら、きっと素晴らしいものができるんじゃないかなと思ってます。

JAGMOは、ゲーム音楽を日本で一番うまく演奏するオーケストラにしたいと思っているんですよ。だから僕が直接、ひとりひとりの演奏家を口説いて回りましたね。やっぱりトップクラスの演奏家にJAGMOに参加して欲しい。あとは同年代の人であれば、プレイしてるゲームも一緒だから、そういう人たちとしか出来ない演奏があると思っています。

―― 各演奏家の方がゲーム好きか、ということも見てらっしゃるんですか?

泉志谷 もちろん見ますね。見ますけれども、ゲームが好きで、かつ演奏もうまいというのが一番いいんですよ。どちらかというと、演奏がうまいほうを僕は重要視してます。そっちが無くなってしまうと、音楽としての質が下がってしまうので。そこはシビアに見ていますね。

クラシック音楽は数百年前の音楽で、かつ他国の音楽ですけど、すごく勉強して背景を知ったりして、世界に認められる演奏家が日本にも多くいらっしゃるじゃないですか。だからゲーム音楽も、おそらくそうなるなと思っているんです。ゲームをちゃんと勉強するとか、ゲーム音楽を演奏するとはどういうことかをしっかり学んでいく人が増えたらいいなと。僕のスタンスとしては、まず音楽を最重視していて、かつゲームを理解していればなお素晴らしい、という感じですね。

―― そういうスタンスで、JAGMOを運営していきたい、と。

泉志谷 はい。JAGMOの目標は、ゲーム音楽を音楽史に残る文化にするということなんです。ですから2083さんの理念にもすごく共感しています。そのためにも良質な演奏をちゃんと残していかなければいけません。ひとつひとつのコンサートで毎回、音楽単体としてもお客様に感動していただけるように。ゲームを知らなくても、演奏を聴いてそのゲームを好きになったと言ってくださる人がいるような演奏を目指したいですね。「演奏を聴いてそのゲームをやってみたくなった」という声が一番うれしいです。

―― そうですね、すごく同感です。それは一番理想的ですよね。

泉志谷 そういうアンケートの回答を見ると、やってよかったなと思います。

―― 実際にそういう感想があったんですか?

泉志谷 はい。『クロノ・クロス』はそういう声が多いですよ。

―― それは嬉しいですね!

泉志谷 とても嬉しいです。ゲーム音楽っていうからには、ゲームも文化として根付いていく必要があるじゃないですか。

―― ゲーム自体がないと、ゲーム音楽は存在できないですからね。

泉志谷 そうなんです。ゲームそのものも、世の中にどんどん文化として浸透していくように……というのは僕の、JAGMOの願いでもあります。



※JAGMOは、渋谷・新宿・東京・横浜などの主要JR駅に駅看板を出すなどして、積極的に広報展開している。




―― 2015年のJAGMOは、どんな活動をしていきたいとお考えですか。

泉志谷 まずは、とにかく継続させることですね。興行をちゃんと成功させて、継続するオーケストラ団体にすること。……これが一番難しいことなんですけどね。僕はJAGMOで1年やってきましたが、僕が1回でもミスしていたら、今JAGMOはないようなシビアな状況なんですよ。ですので、たとえば支援してくださる企業さんを探すなどして、連携を強めていくといったことをしていかなきゃいけないと思っています。継続的にオーケストラや室内楽のコンサートを開催する、というのが今年の一番の目標です。

―― コンスタントに、数か月に1度ほどの単位で公演を行っていきたいお考えですか?

泉志谷 多すぎてもだめですけどね。ひとつひとつのコンサートを、お客様に満足してもらえるように、きっちり作り込んでいきたいです。そしてJAGMOを長く、永続的に残る楽団にしていく、というのが大事ですね。普通のやり方をしているだけでは、ただ興行を打って、明日の興行がダメだったらつぶれる、という形になっちゃいますから。そうじゃない状況にJAGMOを持っていくことが先決です。いろんな可能性を模索していきたいですね。

もうひとつは、「ゲーム音楽だけがひとり歩きしてもいけない」ということに、この1年やってみて気づいたんです。先ほどの話にもありましたが、ゲームありきのゲーム音楽ですし。ゲーム文化自体をもっと広げていくようなところにも貢献していきたいなと思っています。

―― そうなんですよね。コンシューマのゲーム業界も、年々売り上げが下がってきていますし……。泉志谷さんも、そのへんを危惧されているんですね。

泉志谷 はい。でもやっぱり、僕がプレイしたあの時代のゲームも愛しているんですよね。思いっきり遊んで、思い出もたくさんあるし、思い入れもあるし。だからそれをどうにかして残していきたいし、もっといいものにしたいし。世界にもっと広げていきたいんです。

あと、2020年には東京オリンピックが開催されますが、そこに向けてゲームを愛する人たちが集まれるような場所を作りたいなと思って。ゲームの博物館を作ろうと今企画しているんです。その足がかりをこの1年で作りたいと思っています。そこに、もしホールも併設できれば、継続的にコンサートもできるようになりますし。その方向に考えていかないといけませんね。今、地盤となるものが何もないんですよ。ゲーム文化を広げていく、ということは結果的にゲーム音楽が広がっていくものにもなりますし。

なので、2083さんとも一緒に何かやりたいなと思ってます!ゲームを愛する人たちと連携して、ひとつになって、ゲームという文化を残していくという方向にシフトしていきたいですね。だって、僕らの世代の文化じゃないですか、ゲームって。それはやっぱり、僕らが意図的に残そうとして、形にして、次の世代に伝えていきたいですから。みんなスマホのゲームしか知らないってなるのは悲しいです。

―― 本当に、そうですよね。

泉志谷 僕はゲームに育てられましたからね。人生のイロハをゲームで学んで。例えば困ってる人を見かけたら助けたいんですよ。『ドラクエ』でも、困っている人を助けて先に進んだじゃないですか。そうしてレベルアップしていって。そういうところが、自分の意志決定にもすごく影響してるなと思うんです。

―― ゲームから学んだことが色々ある、ということですね。

泉志谷 多いですね。RPGのように、道に迷ったらいろんな人に話しかけて聞きますし。そうして次のシーンに進んでいくし。少し戻ってみたら新しい発見があったり。困ってる人がいたら助けたり。そういうことは、RPGからおのずと学んだと思いますね。戦ってレベルを上げて、最後は魔王を倒して。

―― 苦しいことを乗り越えた先には、達成感があると。

泉志谷 はい。人生そのもののような気がします。

―― 泉志谷さんとしては、JAGMOに人生を懸けてもいいくらいの心構えなのでしょうか。

泉志谷 それはありますね。僕が社長じゃないほうがJAGMOが継続するとなったら、僕は迷わずそっちを選ぶでしょうし。JAGMOが継続することを一番に考えたいなと思います。そのために出来ることはなんでもやる覚悟です。JAGMOが続いていって、ゲーム音楽の文化もずっと続いていってほしいと思っています。

斉藤  本日はありがとうございました。JAGMOの今後の活躍を楽しみにしています!





⇒【前編】2月7日・8日公演:演奏楽曲のコンセプト



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