特集コンテンツ

ゲーム音楽と歩んだ25年 〜下村陽子ロングインタビュー〜

その4:いろんな音楽が、自分の糧に


─ 下村さんはカプコンでご活躍された後、スクウェア(現 スクウェア・エニックス)に移籍されますね。スクウェアでの初担当作品である『ライブ・ア・ライブ』(以下、『LAL』)についての質問も来てますよ。

25thQA 『LAL』は、メインテーマが色々な形にアレンジされて流れていましたが、あれは下村さんが発案なんでしょうか。それとも時田さん(ディレクターの時田貴司氏)からのオーダーだったんですか。

下村 ゲーム中に、色々アレンジしたものを流すというのは、時田さんのアイデアですね。ただ私も、メインテーマを作ったり、そのアレンジが他の曲に出てくる、というのは個人的にすごくやりたかったことなんです。

─ 下村さんもやりたいと思ってらっしゃったんですね。

下村 はい、ずっと思ってたんですよ。

─ 下村さんは、RPG作品を担当されたのは『LAL』が初めてだったんですよね?

下村 そうですね。実はカプコンの時、『ブレス オブ ファイア』で1曲だけ書いてたんですけどね。「どうしてもRPGやりたいから書かせて!」って、非常に強引な……強引大作戦で(笑)、無理矢理書かせてもらったんですけど。「どうしてもRPG作品の音楽を書きたい!」って思ってスクウェアに入ったんです。念願の初RPG全担当だったんですけど、まあ、普通のRPGじゃなかったですよね(笑)。

─ たしかに(笑)。オムニバス作品で。というか、あんなにバリエーション豊かな各シナリオの楽曲を、よく下村さん1人で書かれましたよね。すごいと思います。

下村 私、すごくいっぱい音楽を聴くんですよ。
普通の人が聴かないような、おしゃれとは縁遠い民族音楽とか。

─ どんなきっかけで聴くようになったんですか?

下村 高校の時の先生が、けっこう変わった方で。民族音楽をいっぱい聴かせてくれたり、レコードを貸してくれるような先生だったんです。「どこの国の音楽なんだろう?」っていうような曲を色々聴いたんです。それらが、おぼろげな記憶として蓄積されて、今の私のパーツになってるのかなと思いますね。

あと、私の父がすごく音楽好きだったんですよ。父はいろんなレコードを持ってたんですけど、父が聴いている音楽を私もよく耳にしていました。うちは不思議な家で、毎年お正月になると、一日中レコードで箏の曲がかかっていたんですよ。「たん、たらりらりらりん♪(※『春の海』)」って(笑)。

─ (笑)。

下村 お正月気分を味わうみたいなね。まあ一日中ってのは大げさですけど、ある程度ずーっと流れていて。再生が終わると、父がまた最初からレコードをかけ直すんです。普通、そういうことってあんまりしないですよね……?

─ ですね、あんまりないと思います。

下村 箏の曲以外にも、ベートーベンのピアノソナタのレコードとか、演歌の舟木一夫さんとか、殿さまキングスのレコードとかがあって。またその横にハンガリー舞曲のシングルレコードがあったりしましたね。

─ いろんな音楽が下村さんの家にはあったんですね。

下村 そうですね。普通の小学生が聴かないような音楽を聴いてたんですよ。むしろ、ポップス的なものはほとんど聴かなくって……。父がそういう流行りものの音楽は好きじゃないって言って。

─ 当時色々聴かれたものが、作曲の役に立っているのかもしれませんね。

下村 そうですね、もしかしたら役立ってるのかなと思います。

─ 『LAL』は、もうひとつ質問が来てますね。

25thQA 「MEGALOMANIA」が、本当に一日中聞いてても飽きないくらい好きです。あの激しいビートと底に流れるパイプオルガンみたいな繊細な音と。あの曲が生まれた経緯を覚えておいででしたら、お聞きしたいです。

下村 イケイケ、ノリノリのボス曲ですね。悪いボスと戦う感じじゃなくて、ガンガンにいけるぞ!って感じのバトル曲にしたい、ということで作りました。それが時田さんからのオーダーだったのか、自分で発案したのかはもう曖昧になっちゃったんですけどね。だいぶ前のことなので。

─ パイプオルガンの音は、「魔王オディオ」のメロディですよね?

下村 そうですね。それをちょっと混ぜて。ディレクターの時田さんからは、「オディオのテーマをいろんなところで使いたい」というオーダーがあったので、オディオのテーマが出てくるんです。パイプオルガンで。実際、パイプオルガンをあんなに早弾きしたら大変なことになりますけどね(笑)。

─ たしかに(笑)。

下村 まあ、こういう音楽だからできる技ですよね。「MEGALOMANIA」は、曲自体はさっくり出来て、聴いてもらったらすごく評判もよかったんですが、こんなにいつまでも好きと言っていただける曲になるとは思ってませんでしたね。いや〜、ありがとうございますって感じです(笑)。

─ スクウェアで下村さんは、自身の代表作ともいえる『キングダムハーツ』(以下、『KH』)の音楽を手掛けられましたね。『KH』関係の質問も来ていますよ。

25thQA 『KH』の音楽担当が決まった時ってどんな経緯で、どんなお気持ちでしたか?

下村 スクウェアの社内を歩いてたら、プロダクションマネージャーの人に突然呼び止められまして。「下村さん、仕事を頼むからやってね!」って言われました。ディズニーさんのゲームと聞いて、嬉しかったですけど、正直プレッシャーはありましたね。

─ ですよね……ディズニーキャラクター総出演のゲームですもんね。

下村 そうなんです。もともとのオリジナル作品にもすばらしい曲がいっぱいありますからね。自分にできるか心配でしたけど、精一杯がんばらなきゃと思いました。

25thQA 『KH』シリーズの楽曲を引き受けた時、やはり原曲があるのでアレンジをする際は大変苦労されたと思いますが、今だから話せるエピソードがありましたら教えて下さい。また、作曲をする際、原作の映画はご覧になりましたか。

下村 今でも話せないエピソードならあるんですが……(笑)。

─ おっと(笑)。では、原作の映画はご覧になりましたか?

下村 はい。全部見てると時間が足りませんけど、基本的には見るようにしますね。
あとは、すでに見たことがある作品も多いです。

─ 映画からは、どういったことを参考にしましたか?

下村 世界観を参考にするには、やっぱり動いている映画を見るのが一番いいですね。
ただ、あんまり音楽ばっかり聴いちゃうとそこに引きずられちゃうので、どっちかっていうと目で一生懸命見ます。視覚的なものからヒントを得る感じですね。

25thQA 『KH』シリーズの楽曲で、最も制作期間が長かった曲は何ですか?
また、エピソードがありましたら教えてほしいです。


下村 う〜ん、なんでしょうね。時間を測ったことがないのでわからないですね。その曲にどれだけ時間をかけて作ったかってことだと思うんですけど。

─ 言いかえれば、一番作るのに苦労した曲ってことですかね。

下村 時間はそんなにかかってないと思うんですけど、苦労したという意味では『KHCOM』の「トワイライトタウン」ですね。何度もボツになって、何回も作り直しましたから。作曲中のファイル名も、「トワイライトタウン_ver5.6」とか、どんどんバージョンが上がっていって……(苦笑)。いくつバージョンできてんだ〜!!って(笑)。

25thQA 『KH』の主題歌「光」は宇多田ヒカルさんでしたが、ご本人とお会いしてお話する機会はありましたか? もし無ければ、彼女が制作した楽曲を耳にされた感想をお聞きしたいです。

下村 宇多田さんとはお会いしたことはないんですよね。ただ、これは貴重な体験だなと思うんですけど、「光」のデモ版を聴かせていただいたんですよ。

─ おお、完成前のバージョンですか。

下村 はい。デモはデモで、もちろん素晴らしかったんですけど、完成した曲を聴かせていただいた時の「ここまで来るか!」っていうのはすごい衝撃でしたね。素直にすごいなって思いました。「あのデモがこうなるんだ……!」って。すごくびっくりしました。


twitter