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DETUNEに聞く、M01とこれから

Article written by 高部 大幹




その1:20年前の「シンセの宗教革命」を再現


斉藤 本日はお忙しい中、お時間をいただき有難うございます。

今回の記事が掲載される[2083WEB]を見ている方の中には、
昔のシンセを知らない方も多いと思いますので、
そのような方にもM01の魅力を分かりやすく紹介できればと思っています。

早速ですが、まずは制作経緯から教えていただけますか?

岡宮 こういう「固め」に始まる取材は初めてですね。

佐野 いやぁ、でもこういう切り口は必要ですよ!(笑)

いつもの取材だと「自分がどれくらい『M1』が好きだったか」
というインタビュアーの話しを僕らがずっと聞いて、
「そうですね、そうですね」とうなずくのが実は多かったので(笑)
今回はシンセの「M1」を知らない人に伝える気持ちで行きたいと思います。

写真


岡宮 まず最初に「KORG DS-10」ですね。
2人で飲んでいる時に「『MS-10』を『ニンテンドーDS』で作ろうぜ」
と言っていたのがきっかけで生まれたソフトです。
(※) KORG DS-10 ・・・ 「ニンテンドーDS」専用音楽ツール・ソフト。アナログシンセの銘機「MS-10」(1978年発売)をデザインコンセプトにしたもの。AQインタラクティブがコルグと共同開発し、2008年7月に発売され、ヒットした。
(※) 株式会社コルグ ・・・ 電子楽器を製造・販売する日本のメーカー。1960年代より数々の個性的なシンセサイザーやデジタルピアノの銘機をリリースしてきた。英文社名は「KORG INC.」。

僕も佐野も初めていじったシンセが「MS-10」。
だから、それを元に作った「DS-10」がウケたのはかなり嬉しかった。
そこで「この流れで次、何をつくろうか?」となったんです。

「DS-10」は特に音作りが醍醐味のソフトなんですが、
「もっと曲作りをやりこみたい」というユーザーもいらっしゃった。
そこで次は「M1」をDSで作ろうというアイデアが上がり、盛り上がった。
(※) KORG M1(コルグ エムワン) ・・・ PCM音源搭載の本格的シンセサイザーの草分け。PCMとは、楽器などの音を録音してデジタルデータにし、再生する音源方式。 1988年に発売され、公称10万台のベストセラーとなった。[定価248,000円]

岡宮 でもその時、僕たちはAQインタラクティブに在籍していて、
すぐに実現するのは簡単ではなかった。

そこでDETUNEを立ち上げて、「M1」をDSで作ろう、
ということでようやく商品として実現した。
こういう流れです。はしょりましたけど、大丈夫ですかね?

佐野 そうですね。

岡宮 佐野さんが一言もしゃべらないって怖いですね。


(一同笑)


佐野 いやぁ、でも「M1」を知らない人に説明するのは難しいんですよ。

斉藤 僕の世代ですと、コルグのシンセというと「TRINITY」や「TRITON」などの
90年代後半の物が思い浮かびますが、それらの元となった機種ですよね。

佐野 そうですね。
そして、それまでのシンセがアナログだったのが
デジタルになるきっかけになった3つのシンセがあって、
「M1」はそのうちのひとつなんですよ。

まずはFM音源搭載の「YAMAHA DX-7」。
これは従来のアナログシンセでは出ない音が出たけど、
エディットがしづらかった。

次に「Roland D-50」が出て、これはエディットしやすく人気があった。
これはアナログとデジタルのハイブリッドでした。

で、その後に「KORG M1」がフルPCM、
つまりフルデジタル音源として出たので、
技術的にも、音色的にも、凄くインパクトがあったんですよ。

それ以前は「シンセはアナログ」が当然だったのですが、
「M1」によって「シンセはデジタル」とダーンと一変した。

そして、デジタルシンセになったことで、
「音を作る」から「音を選ぶ」という風に変わっていった。
「DS-10」の元となった「MS-10」と、
「M01」の元となった「M1」とでは、
同じシンセでも随分違う物なんです。

斉藤 だいぶ分かってきました。

佐野 よかった(笑)

斉藤 僕もシンセは使ってますが、シンセ=PCMのイメージでした。

佐野 そうなる前に戦国時代があったんですよ(笑)

アナログシンセの頃は「音は作らないといけない」と思っていた。
でも「音は選んでいいんだ」とか「作ってる場合じゃない」という
豪快な宗教革命みたいなものが起きてしまった。
そこで翻弄されたんですね、みんな。
で、いろんなことを言う人が出てくるわけですよ、
「アナログシンセは終わりだ」とか。

岡宮 大人が言ったんですね(笑)

佐野 そう。「これからはデジタルシンセだ」と言う人もいれば、
「アナログとデジタルのいいところを使えばいい」とか、
「アナログは今後も絶対続くんだ」とか・・・。

いろんなことを言う人たちに、当時の若者は「うわぁ」となりました。
私もそのうちのひとりだったので、特に思い入れがあるんですね。

それから、「M1」は25万円と高かった。学生は買えなかったですね。
当時は「M1」を持ってるだけでその人の長所というか(笑)
それだけで「うちのバンドに来ないか」とかなって。

岡宮 それくらいエポックメイキングなものでしたね。

高部 その宗教革命の話は、当時のゲーム音楽の状況にも似ていそうです。
80年代後半頃、ゲーム音楽はFM音源が中心でした。
FM音源はアナログではないけど「音作り」をする音源。
でも「M1」が出た頃から、ゲーム音楽でもPCMが徐々に使われるように・・・。

佐野 シンセとは少し時期がズレつつ、ですかね。

高部 ズレてるかもしれないですね。
古くからのゲーム音楽リスナーは、
PCMになったことで時代が変わったと感じました。

佐野 ああ、似てますよね。
その頃、ゲーム音楽の聴き手も作り手も
ジレンマみたいなものを感じてましたね。
シンセで起きたことが、その数年後にゲーム音楽でも起こっていた感じです。

僕がナムコに入った頃は、
ゲーム音楽がFM音源からPCMになる過渡期だったんですよ。
だから僕はFM音源の経験ないんですね。

いやぁ凄かったですね、いろんなことを言う人がいて。
「FMを知らないくせにゲーム音楽を作ってるなんて言えない!」
と言う人が平気でいましたしね(笑)

で、そういうのを総合すると、
「大人の言うことは、ほぼ嘘だ」と。


(一同笑)


岡宮 どういうまとめ方だ(笑)
ともかく佐野さんも「M1」を愛用してたんですよね。

佐野 ええ。「M1」の音色には異常に思い入れがありますよ。
「M1」は他のゲーム音楽作曲家にも凄い人気がありましたね。

斉藤 当時の「M1」の存在感は凄かったわけですね。
このようにシンセの歴史をたどると面白いです。

佐野 そういうシンセの話しが出るきっかけになってくれてもいいかな。

岡宮 そう言えば「DS-10」を出した時、
昔と同じような会話が某掲示板に出てたんですよ。
年齢の高い方と、昔を知らない若い方の会話が面白くて。

「どうやったらDS-10でピアノの音が出るんだ?」
「昔も似たようなこと言ってた。それはね・・・」
みたいな温かい会話(笑)

佐野 当時のムーブメントを知らない人が「DS-10」を買って気に入るとします。
で、今回「M01」というのが出る。
最初は「DS-10」の新バージョンかと思ったところが、実は全然違う中身らしい。
そこでまさに当時のようにジレンマを感じるんじゃないでしょうか。
「僕はこのまま『M01』を買ってもいいんだろうか!」って。

斉藤 なるほど(笑)
僕も最初「DS-10」と「M01」の違いが分からなかったんですけど、
今、話をうかがって、根本的に違うということが分かりました。

佐野 アナログで音作りが醍醐味の「DS−10」と、
デジタルで曲作りが醍醐味の「M01」。
全然違うので、最初は驚くと思います。

買われた方は年内は心の葛藤で終わって、
年が明けた頃には心の整理がついてるかも知れませんね(笑)


(その2では実際に「M01」を触り、何ができるのかを紹介します)