哀愁漂う独特の世界観で人気を博している、スクウェア・エニックスのアクションRPG『ニーア オートマタ』。その世界を彩るために重要な存在となるのが音楽です。今回は本作の音楽を手掛けたMONACAの岡部啓一氏、帆足圭吾氏、高橋邦幸氏に、『ニーア』サウンド制作の裏話をうかがいました。

取材・文:hide(永芳 英敬) 撮影:中村ユタカ







親しい間柄が、密な音楽演出に繋がる

─ 本日は、『ニーア オートマタ』の音楽に関するお話をメインに、前作『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』のことも含めてお聞きしていければと思います。また、MONACAさんのサウンド制作における姿勢についてもお聞きしていきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

一同 よろしくお願いします。

─ 『ニーア オートマタ』のお話の前に、まず前作の『ニーア』についてお聞きしたいのですが、そもそもどのようなきっかけで『ニーア』の音楽を担当することになったのでしょうか?

岡部 僕は、『ニーア』のディレクターであるヨコオさん(ヨコオタロウ氏)とは学生の時からつきあいがあって、大学も同じだったんです。僕が最初に就職した会社がナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)だったんですけど、ヨコオさんと同じタイミングで一緒に入社して。実は同じ大学からナムコに就職した同期が5人ぐらいいるんですけど、学校が関西のほうだったので、みんな社宅に入ったんですよ。そうしたら、どうしてもつるみがちというか(笑)。ヨコオさんとはプライベートでもけっこう仲が良くて、一緒にご飯を食べたりもよくしていたんですね。そういう時に、彼から「実はこういう企画を考えてるんだけど」と見せてもらったのが、『ニーア』の元となる企画だったんです。正直、まだそれが実際に走り出すかどうかも分からない段階でしたけど、プレゼンをする上では、ある程度試作を作っていきつつというプロセスが必要なわけです。ただ、まだモノになるかどうか分からないレベルなので、なかなかちゃんとした仕事発注として外の方に音楽を頼むというのは難しかったんでしょうね。そういうことで、頼みやすい僕に依頼があったんだと思います。

─ 旧知の仲であった岡部さんに、と。

岡部 そうですね、「もしかしたら製品にならないかもしれないけど、ちょっと手伝ってくれない?」的な感じで。そういう、ちょっと気楽に頼める相手みたいな感覚でたぶんヨコオさんはお願いしてくれたんだろうなと。そういう始まりでしたね。

ゲーム会社のサウンド担当の人って、何本か同時にプロジェクトを持っているケースも多いので、社内にいてもちょっと外注的な感覚だったりするんですよね。グラフィッカーとかプログラマーとかは、プロジェクトが変わるたびにデスクの場所も変わっていくんですけど、サウンド担当はプロジェクトチームの部屋とはまた別にサウンド部屋があったりして、社内であってもちょっと外注的な空気感になるので。ましてや僕らみたいな外注だと、試作の段階から制作に携わらせてもらえることってあんまりないんですよね。なので、音楽制作のお話が来る時にはもうすでにある程度ゲームが形づくられているというケースが多いんですけど、『ニーア』に関しては、本当にほぼゼロに近いところから関わらせてもらっていたんです。

『ニーア』は、もちろんヨコオさんからの「こうしたい、ああしたい」という要望がベースにあるんですけど、「技術的にこういうことができるよ」とか、向こうから「ハードウェア的にはこういうことができます」というようなことを聞いた時に、「じゃあ、こういう演出はどうでしょう?」と、たとえばボーカルをオンオフしたりする演出を入れてはどうかという話をしたり。そういう比較的雑談的なものも交えて、試作の段階から携わらせてもらっていたからやりやすかったですね。

─ ボーカルをオンオフ、というのは、たとえば前作の『ニーア』だと、最初の村の噴水のところでデボルが歌っていて、彼女に近づいていくとだんだん歌声が聴こえてきたり……という演出に使われていますね。『ニーア』は、そういった音楽演出がすごく良くできているなと思っておりました。

岡部 ありがとうございます。

─ そういう音楽演出ができたのは、最初の段階からヨコオさんと密にお話ができたところが大きいのかもしれませんね。

岡部 そうかもしれませんね。


音楽の評判に、嬉しさと困惑!?

─ 前作の『ニーア』は非常に音楽の評価が高かったですが、それについてはやはり嬉しさがありましたか?

岡部 はい、もちろんです。評価していただけるのは嬉しいんですけど、正直前作の『ニーア』を作っていた時は、ゲーム自体もそこまで規模の大きな作品ではなかったというのもあって、「刺さる人に刺さればいいな」という解釈をしていた作品だったんですね。

なので音楽を作る際も、どちらかというと、普段ゲームをプレイされない方を振り向かせるというよりかは、ある程度ゲームが好きで、なんならヨコオさんの今までの作品……たとえば『ドラッグ オン ドラグーン』などをプレイされてきた方にプレイしていただく流れを想定していたところがありまして。実際に正しいかどうかは別として、ゲームの音楽って、「こういうものが正しいよね」と言われるようなものが、たぶん皆さんの共通認識としてあると思うんです。僕の中では、マーケットを大きくしようとすればするほど、そういうところにハマっていく必要性があるのかなと思っていたんですけど、『ニーア』に関してはそういうゲームではないと思っていたので、ある程度好き勝手にやらせてもらってもいいかな?、みたいなところがあったんですよ(笑)。

あと、ヨコオさんからは『ニーア』の音楽に対して、「歌を入れてほしい」ということをマストで言われていたんです。歌を入れるのって、時間的にもコスト的にも、やっぱり色々と大変だったりするんですよね。テーマ曲や挿入歌だけならともかく、最初ヨコオさんからは「すべての曲に歌を入れてくれ」と言われまして。「ボーカルでなくてもいいから、とにかく声がすべての曲に入っていてほしい」という要望があったんです。

マストとして「歌」という要素ができた以上、そこにある程度コストや時間がかかることは分かっていました。なので、限られた予算や時間をどこに割くか?と考えて、たとえば楽器収録の予算や、最終的にスタジオでミックスをエンジニアさんたちに依頼する際の予算などを、「全部歌にまわしましょう!」という作り方をしたんですよね。

あと、当時はCDのような盤が売れづらい時代に入ってきていたんです。新規のゲーム作品のサウンドトラックを発売しても、なかなかコストを回収するのは難しいだろうというところもあって、「おそらくサントラは出してくれないだろう」と思っていたんですね。であれば、ゲームの中で遜色がない感じなら、自分達のセルフミックスでできるねっていうところもあって。前作の『ニーア』の音楽は、そういう作り方をしたんですね。なので僕の感覚からすると、ちょっとインディーズ的というか。あんまり商品商品したものではなく、僕らが予算の枠の配分も含めて、ある程度やりたいようにやらせてもらったものだったんです。正直、「刺さる人には刺さるかも?」とは思っていたんですけど、フタを開けてみるとけっこうな数の方が『ニーア』の音楽を聴いてくださいました。『ニーア』の制作スタッフの中にも、すごく音楽を気に入ってくださった方がいらっしゃったんですよ、広報の方とかも含めて。

─ スタッフの方にも好評だったんですね。

岡部 そうなんです。で、プロデューサーの齊藤さん(齊藤陽介氏)とかヨコオさんとかも含めて、「ぜひサントラを出そう!」と、内部的にすごく動いてくださったんですよ。僕は正直、そんなに評価をいただけるものと思って作ったわけではなかったので、すごく嬉しいんですけど、ちょっと困惑もしたというか。「あ、こんなに!?(笑)」っていう。ちょっとびっくりしました。

─ 予想以上の反響で(笑)。

岡部 そうなんですよ。嬉しいのと困惑が入り混じった感じなのが正直なところでしたね。


ファンとの交流で得た喜び

─ 前作の『ニーア』ファンの方から、お褒めや応援の言葉をたくさんいただいたかと思いますが、特に嬉しかった言葉などはありましたか?

岡部 そうですね……、普通に聴いていただいて、「良かったですよ」と言ってくださるだけですごく嬉しいですね。あと個々の皆さんの感想は、今はネットで伝えてくださる方も多いので、それはどんなコメントも嬉しいですね。ただ、『ニーア』は発売後に時間が経ってから、イベントやコンサートだったり、あとはファンの方の集いみたいなオフ会的なものだったり、そういうもので直接ファンの方と接する機会がちょくちょくあったんですね。ネット上でテキストで「良かったです」って言ってくださるのももちろん嬉しいんですけど、実際にお会いした方が、直接「良かったです」って言ってくださるのは、やっぱりテキストで褒められるのと根本的に違う感覚がありますね。僕たちはユーザーさんと直にお会いできることがなかなかないので。

─ 確かに、そうですね。

岡部 直接お会いして、そういう風に言っていただいたりしたのはすごく嬉しかったですね。言っていただいた内容というよりは、実際に人が喜んでくれているのをリアルに感じさせてもらえる機会を与えていただけたのが嬉しいなと思います。

─ イベントやコンサートですと、お客様の反応がすぐ目の前で見られたりしますから、それで嬉しいというのも大きいかもしれませんね。

岡部 そうですね。特に帆足はもともと楽器の演奏をずっとやっていたので嬉しかったと思います。普段、作家として活動しているだけではなかなかそういう演奏の機会はないので……。

帆足 そうですね。なかなかあることではないので。ありがたいことです。


『ニーア オートマタ』の音楽の方向性

─ さて、ここからは、そんな多くのファンに愛された『ニーア』の最新作である『ニーア オートマタ』の音楽についてお聞きしていければと思います。本作の音楽制作を始められる前に、ヨコオさんとはどのような打合せをされましたか?

岡部 今回は制作がプラチナゲームズさんだったので、開発が大阪で行われていたんですよね。開発が決まってからヨコオさんは大阪と東京を行き来するみたいな生活だったんですけど、僕は基本的には東京にいて、最初の挨拶と、たまに……それこそ半年に1回くらいの頻度で大阪に行って、少しゲームを見せてもらったり、という感じでした。なので前作と比べると、実際のゲームの開発を見せてもらえる機会はけっこう少なかったんですよね。ただ前作の『ニーア』があっての、というところがあったので、今回も『ニーア』という枠でやっていくんだなというところは理解していました。あと、ヨコオさんから今回も「歌は絶対入れてほしい」というオーダーがあったのですが、僕らももちろんそこは了承していて。ファンの皆さんが前作で良いと思ってくれた要素として、歌はかなり大きい部分だと思いますから、そこはやっぱり今回もハズせないな……と。まあ、試行錯誤をする度合いというか、「どうなんだろう?」と分からないまま進む感じは、今回はあんまりなかったです。

─ ある程度、方向性が見えていたと。

岡部 はい。おそらくファンの方が望んでいらっしゃることとか、どういうことが求められているのかは比較的イメージしやすかったです。

─ 今のお話は、前作から引き続き取り入れた要素についてでしたが、逆に今回から新しく取り入れた要素はありますか?

岡部 前作は、最終的にはすごくSF的なストーリーになるんですけど、最初はいわゆるファンタジーRPGのフリをしているみたいなゲームだったんですよね(笑)。けっこうなところまでそういう感じの世界観で進んでいったので、音楽もある程度ファンタジーっぽさというか、スクエニミュージックが好きな方にも気に入ってもらえたらいいな、というところがありまして。「ファンタジーといえばケルトだよね」みたいな感じで、民族音楽的な要素もけっこう意図的に入れるようにしていたんです。

でも今回は、もう初っぱなからSF感がドーンとあったのと、あとプラチナゲームズさんが開発というところもありますし、座組がある程度大きい感じがしたんですよね。キャラデザに吉田明彦さんが入られたりして。「あっ、これは齊藤さんは本気で売る気だな!?」みたいな(笑)。そういう空気感を感じていました。前作はすごく箱庭っぽいというか、閉ざされた世界という印象だったので、音楽もそういう感じで作っていたんですよ。でも今回はストーリーもスケール感が大きくなっていますし、音楽を聴いてくださる方の幅ももう少し広がるだろうなと思ったので、大作とまではいかないまでも、ちょっとそういう壮大な方向に寄せたほうがたぶん合うだろうなと感じたので、そこは最初からすごく意識して作っていましたね。

─ なるほど。今回はゲームの作りとしてもオープンワールドですし、前作のファンの方からの期待も大きかったでしょうし。

岡部 そうですね。そういう意味で言うと、今回はオーケストラっぽい要素が増えるだろうなというところがありました。前作も帆足はオケっぽい曲を担当してくれたので、今回もそういう要素を担ってほしいなと思って携わってもらいました。高橋は今回初めて『ニーア』の音楽に関わっているんですけど、高橋のオケの作りというか格好良さって、帆足の良さとはまた違う良さがあるなと僕は思っていて。そういう良さを、『ニーア』に新しく入れてくれる要員としてプロジェクトに関わってほしいなと思って、今回高橋にもお願いした感じですね。

─ オーケストラの曲は、主に帆足さんと高橋さんが担当した形なんですね。

岡部 はい。2人が多いですね。

高橋 広めな曲というか。

帆足 そうですね、スケール感がある。

─ 3周目の最初の、スタッフクレジットが入る映像で壮大なオーケストラ曲が流れますが、ああいうものでしょうか。

帆足 そうですね、あれは僕です。

岡部 あれはもう絵コンテがあって、劇伴っぽい作り方をした曲ですね。

帆足 はい。ある程度、絵に合わせた感じです。

─ あれを見た時は鳥肌が立ちました。

帆足 あれは、ゲームの中でも群を抜いて映画的な演出ですからね。意図してハリウッドっぽい感じにしたんですよ。あの曲は他の曲と比べてもだいぶ違う感じで。

─ そうですね。あれはスケール感がものすごく出ていました。

帆足 ありがとうございます、良かったです。

岡部 普段、僕らはアニメの仕事もよくやっていますからね。テレビアニメは大概リストでオーダーが来るんですけど、たまに劇場版をやらせてもらう時とかは絵合わせで曲を作ったりするので、そのへんのノウハウが活きた感じかもしれないですね。

─ なるほど。ちなみに今回の音楽制作の割合としては、お三方の中でどのように分担されたのでしょうか?

岡部 僕と帆足と高橋で、4:4:2くらいですかね。

高橋 そうですね。今回僕は量的にはそんなにやっていなくて。

岡部 僕と帆足はほぼ同じくらいやっています。

帆足 そうですね。

岡部 前作は試作段階からやっていたので、途中まで曲のリストが無かったんですよ(笑)。試作の発表の手前ぐらいに、ヨコオさんから「こういう曲を作ってみて」というオーダーが、2、3曲ぶん来て。で、半年くらい経ったらまたオーダーが来るみたいな感じだったんですけど、今回は最初から曲のリストがちゃんとあって。それを3人で見ながら割り振って、担当を決めていった感じです。








「ニーアらしさ」とは?

─ 『ニーア』の音楽は、歌が入っていることや哀愁感があったりなど独特な要素が多いですが、『ニーア』の音楽を作る際に大切にされたことはありますか?

岡部 僕は前作の『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』の音楽を担当した時に、歌があるという時点で、結構はっきりしたメロディがまずありきで、それを活かすための肉付けとしてのトラックづくりみたいな……要は、歌ものを作る時に近い感覚で作っていったんです。あとヨコオさんから、「『ニーア』はとにかく哀しいんだ。楽しい時なんか無い。この世界は哀しみにあふれてる!みたいな世界のゲームだから、この世界は全部の曲が哀しくあってほしい」と言われたんですね。なので、メロディにすごく哀愁感があるんです。

劇伴やゲーム音楽が持つ役割としては、状況説明が多いんですよね。「今、こういう状況ですよ」というのを音楽で表現するという。でも前作の『ニーア』に関して言うと、ヨコオさんからの「何をしている時にも哀しくあってほしい」という要望があったので、激しいバトルの時に流れる音楽も、激しい中に哀しい要素が入っていて。“状況描写+キャラクターの心情”を常に入れようという思いが僕の中にはあったんです。今回も基本的には哀愁感を入れています。それが「ニーアらしさ」ですね。ただそれは、前作より意図的に薄くした部分もあるんですよ。「ニーアらしさ」のさじ加減をあえて減らして、スケール感を表現したり状況描写にもう少し寄せた、みたいなところはありますね。

帆足 僕は今回「ニーアらしさ」というものをちゃんと認識するべきだなと思って。そもそも僕は前作の『ニーア』がゲームとしては初仕事だったんですよ。それ以前にもちょこちょこお手伝いさせてもらったことはあったんですけど、ゲーム作品にちゃんとサウンドスタッフとして名前が入ってやらせていただくのは初めてでした。当時は岡部さんにダメ出しをされながら、とにかく作るみたいな感じだったんですけどね。当時の状況を振り返りつつ、「ニーアらしさ」とは何かって色々考えてみたら、やっぱり物哀しさでした。でも、すごく哀しい感じの雰囲気ではなくて、どこか哀しい感じのする、ちょっと異国情緒感あふれる感じなんです。お葬式みたいな、ほら哀しいだろうって感じの曲ではなくて、哀しいようにも聴こえるんだけれども、聴き方によっては綺麗な感じにも聴こえて、情感が強く出過ぎてドロドロしている感じではあんまりないという。けっこうスラッとした、聴いてて疲れないというか。

─ ちょっと浮世感があるというか。

帆足 そうですね。そういう物哀しさみたいなものが不思議な雰囲気をすごく醸し出していて、それが『ニーア』の世界観にすごく合っているんだろうなと思います。それを今回の『ニーア オートマタ』にも入れたところと、今回は設定がSFも入ってまた違う部分もあるので、そうではなくちょっと違う新しい形にしようと思ってやったところと結構分けている感じですね。

高橋 僕は前作の時は外から見る立場だったんですが、今回音楽を作るにあたって、前作のサントラを聴いたりもしたんです。もちろん音楽を聴いて構造を分析すれば、「こういうコードの運びをすると、こういうメロディになって、『ニーア』っぽい曲ができる」というのは分かるんですけど、いざ実際に自分で音楽を作る時に、それをどう生かそうか?どのくらいのさじ加減でやるか?というのはすごく悩みましたね。

前作と同じような曲を作ることもできるんですけど、たぶん比べられちゃうんですよね、「前作のほうが哀しかった」みたいな。じゃあ今回、音楽を自分が作るにはどうしよう?と思った時に、「ニーアらしさ」のどの部分を持ってくるかを考えましたね。全部の要素を持ってくると前作の『ニーア』そのままになっちゃうから、持ってくるのは1個だけにしよう、と。たとえば今回はコード進行を追わないようにしました。やっぱりコード進行で持っていかれる部分って音楽的に結構あると思うので、そこは外そう、と。あと、僕が感じる「ニーアらしさ」はメロディの音運びの部分なんですけど、そこを活かして作っていましたね。

岡部 僕の癖みたいなところもあるんですけど、半音移動みたいなのをよくやるんですよね。半音移動してポンッと飛ぶ、っていうことをやりがちで。それをやると、まあまあ『ニーア』っぽくなる部分はあるんですよ。ただ、それだとちょっとパロディみたいになるんですよね。“っぽい何か”になっちゃいがちで。それっぽい何かと、説得力がある音楽はまたちょっと違う話だと思っているので。


3人の個性が混じり合った『ニーア』サウンド

岡部 あと、僕の中では高橋は帆足と比べるとドライめな音楽で、帆足は僕よりもウエットな感じなんですね(笑)。嫌な言い方をすると、ちょっとクサい音楽で(笑)。さじ加減的な部分で、「この曲、許容範囲超えてませんか」みたいな時もあったんです。そういう意味で、帆足には「もうちょっと変えてほしい」みたいなオーダーを出すことも前回を含めてあったんですけど、高橋は音楽的にもう少しサラッとしてるんですよ。状況描写寄りの、実写のドラマとか映画に近い音楽のほうが得意な作家だなと僕は思っているんですけど。そういう意味で言うと、高橋は今回すごく意図的にこっちに寄せてくれている感じでしたね。

高橋 けっこう難しかったですけどね(笑)。

岡部 でも、すごくいい落とし所になっているなと僕は思いますね。前回もそうなんですけど、僕1人で『ニーア』の音楽を作っているわけではないので。この3人で作った曲が集まった時に、今回の高橋の曲はすごくいいアクセントになっているなと僕は思っていて。で、帆足の曲も僕の曲も、それぞれ並べていくとその人の個性がまあまあ出てるんですよね、『ニーア』という作品の枠の中で。SNS上で「この曲が好き」っていう方の傾向を見てると、だいたい同じ人の曲を選んでるんですよね。「ああ、この人の好みは、作家性のここの部分に刺さっているんだな」みたいなのが結構あって。そういうのが、意外と『ニーア』という枠に入れても……世界観が統一されてるって言ってくださる方も多いんですけど、意外と人によっての差は明確にある感じがしますね。

帆足 特に作っている側から見ると、この人の自分と同じ方向をたぶん目指して作った曲と、この人の同じ意図で作った曲は全然違うな、ってなりますからね。作品の中で通しで聴いたりするとプレイヤーさんからはそこまで分からないかもしれないですけど、作ってるほうからするとかなり明確に出ますね。

高橋 サントラのマスタリングの時に、曲が全部ダーッって並んでるのを聴いたんですけど、「ちゃんとキャラ立ってるんだな」って(笑)。

岡部 そうそう(笑)。そうなんですよ。

高橋 そういう部分が結構見えて。さっきの「ニーアらしさ」の話に戻ると、前作から残す部分は残して、あとはあえて外して良かったなっていうところはありましたね。

岡部 そうですね。僕自身も結構最初「ニーアらしさとは?」というものを考えて、意図的に『ニーア』っぽく作ってみようかなと思ってやったんですけど、「これはちょっとパロディの域に行ってるな」と感じて、その成分を減らしたり……みたいな試行錯誤をやったんですよね。僕自身ですらそうなんだから、2人はもっと難しかっただろうなと思います。ただ最終的な落とし所としては、それぞれの良さがまあまあ出ていて、混じった時にちょうどいい感じになったかなと思いますね。

─ ドライめな高橋さんとウェットな帆足さん、それをまとめる岡部さんでちょうどよく混じり合った感じですね(笑)。

岡部 そうですね(笑)。廃墟都市のフィールドで流れる曲を制作の最初の頃に作ったんですけど、結構長く聴く可能性がある場所だったので、他の曲に比べると、少しサラッとしたほうがいいかな?と思って。最初のほうだったというのも含めて、「このメロディはちょっと情感が強すぎるかな?」とか、さじ加減にかなり迷った曲なんですよね。サラッとさせすぎると味気なくなっちゃうと思うので。そのへんのさじ加減は難しい要素ではあるんですけど、そこが『ニーア』というタイトルは重要なところだなと思って。

帆足 そうですよね、そこの加減が難しいですよね。ウェットで情感あふれる感じにしすぎると、長時間聴くのがつらくなるんですよ。

岡部 そうそう。しんどいんですよね。

帆足 聴く方もエネルギーを使って聴くようになっちゃうと思うので。サラッと聴き流せなくなっちゃって。そこは難しいですよね、本当に。

岡部 うん。前作の曲も、音楽としてリスニングするにはいいけど、「これ、長時間聴くとしんどかったかもな」っていう反省点も正直あったりとか。ちょっと主張しすぎてるなってところもあったりしたので、それを踏まえて今回は、いい塩梅の「ニーアらしさ」を入れる努力をしましたね。

帆足 今回、実際にゲームをプレイしていると、レイヤリング(プレイヤーのアクションによって音源がシームレスに変化していく)がすごくいい感じになってますよね。フルのバージョンだとそんなに前回と変わらないぐらいの濃さがあっても、フィールドで長時間ずっと聴く時とかはあんまりそこまで気にならなかったりというのもあって。

岡部 そうですね。


“対”になる新たなヴォーカリスト

─ 次は、ヴォーカリストの方についてお聞きできればと思います。『ニーア オートマタ』では、前作でもおなじみのエミ・エヴァンスさんと中川奈美さんに加えて、新たなヴォーカリストとしてジュニーク・ニコールさんと河野万里奈さんが参加されましたが、お2人の起用のきっかけを教えてください。

岡部 前作と今作における音楽の方向性の違いについてはもちろんヨコオさんとも話をしましたし、僕らが思う「もっとこうするべきかな」というのもあったんですけど、やっぱり『ニーア』といえば歌という印象が強いと思うんです。あと、音楽の細かな違いについては、音楽に詳しい方はたぶん汲み取っていただけるかもしれませんが、ライトユーザーの方にはそれが伝わりづらいかな……というのがあったんですね。それに比べると、歌い手の方が変わったら、もう誰もが「あっ、違う!」と思っていただけるだろうなという考えがありました。そこでヨコオさんとも話して、新しいヴォーカリストを入れたいねということになったんです。とはいえ、エミさんのような、歌であれぐらい豊かな世界観を表現できる人ってなかなか正直いないと思っていて。

─ 確かに……そうですね。

岡部 エミさんの歌声と『ニーア』のマッチングはすごく良かったですから、次もエミさんの歌を望んでいらっしゃるユーザーの皆さんも多いかなと。

─ ええ。『ニーア』といえばエミさんの歌声を連想する方も多いでしょうし。

岡部 そうですね。僕らもそういう考えがあったので、エミさんにはやっぱり次もぜひお願いしたいよねと。エミさんはマストとして最初にあったので、それを踏まえた上で新しいヴォーカリストの方を入れようとなったのですが、エミさんのような人を増やしてもあまり意味がないかなと思って。ある意味、エミさんの“対”になる方が必要だったんです。いろんなシンガーさんがいらっしゃる中で、エミさんもすごく個性的な方ですので、その真逆の位置にいる方を探しました。そういう方を入れるとコントラスト感が出るというか、対比としてエミさんの良さもより際立つし、新しく入る方も、エミさんと比較してどうこう言われづらくなるかな、というのがあったんです。

─ 対極の人を入れれば、それぞれの良さが引き立つ、と。

岡部 そうですね。あと、中川さんにも今回もぜひお願いしたいと思っていましたし、日本語のエンディング曲を歌う方も必要だったので、日本人の方が入るというのは決まっていたんです。なので、そうなってくるとおのずとパワフルな声を持った黒人の方というのが対比としてはすごくいいんじゃないかなと思いまして。そういう方を色々あたっていきつつ、最終的にジュニークさんがすごくいいなとなって、彼女に歌ってもらうことになりました。




「心情を伝える」ための歌

─ なるほど。河野さんについてはいかがでしょうか?

岡部 実は河野さんは、プロジェクトの最後のほうで参加が決まったんです。エンディング曲の「Weight of the world」はエミさんのバージョンとジュニークさんのバージョンがありますけど、この2人の歌唱力というか、歌の説得力はすごいなと思っていまして。いざ日本語版のエンディング曲を歌ってもらう方を探すにあたって、2人と同じ並びに入る日本人のシンガーは、かなり厳しいかもしれないなと正直僕は思っていたんですね。それはヨコオさんも思っていたみたいで。

ヨコオさんって、「演出としてこうしたいから、こういう音楽が欲しい」というのがすごく明確にあって、そこにそぐわないものはひたすらリテイクが来るんです。ただ、音楽的な理由でリテイクを出すことってあんまり無いんです。なので今回ヨコオさんは、大阪に行っていてスケジュールを合わせづらいというのもあり、エミさんやジュニークさんの歌のレコーディングには、あんまり立ちえなかったんです。でも日本語のエンディング曲だけは、「こういう風に歌ってもらいたい」というオーダーがヨコオさんの中ですごく明確にあって。そのレコーディングの時だけは、事前に「絶対に立ち会いたいから、スケジュールをちゃんと調整してほしい!」と強く言われました。

Bエンディングを見てくださった方は河野さんの歌うエンディング曲をもう聴いてくださったと思うんですけど、後半で、すごく泣き崩れるような歌い方になるんですよね。あれは、ヨコオさんからぜひそうしたいというオーダーがあったんです。最初のAエンドでジュニークさんのバージョンが流れて、次のBエンドで河野さんのバージョンになるのですが、「“対比としての心情”を伝える役割としての歌」という見せ方をしたい、という思いがすごくあったんですね。歌唱力だけではなく、そういうことができる人がいいというのを、河野さんに決まる前からヨコオさんは言っていたんですよ。

実は河野さんとは以前からMONACAで曲を作らせてもらったりしていて、お付き合いもけっこう長かったんです。人としてのコミュニケーションをけっこう取ってきていた部分もありましたし。あとは、彼女はもちろん歌がうまいんですけど、それだけではない“情感”みたいなものがすごくあるなと思っていたので、今回のヨコオさんが望んでいるものにぴったり合うんじゃないかなと感じたんですね。

あと、歌のうまい方ってたくさんいらっしゃいますけど、僕が歌のディレクションをする際に「もっと泣く感じで歌ってください」って、なかなかそれこそ大御所のシンガーさんとかにはちょっと言いづらい部分があったんですよね。ニュアンスがすごく難しいだろうなという想像もしていましたので。そういった難しいオーダーにも頑張って歌ってくれるかなと思って、それでぜひ河野さんにお願いしたい、という形になりました。

─ なるほど……Bエンドを拝見した時に、後半が非常に感情的な歌い方という印象を受けたのですが、謎が解けました。

岡部 そうなんです。本当は、シンガーとしては後半も当然もっと上手く歌えるんですけど、わざと崩してもらっているんです。ライブとかでその場で消えて無くなるものならともかく、あれぐらい音程もあえて不安定だったりするものが録音された音源として残ってしまうのは、やっぱりプロのシンガーとしてはちょっと抵抗があるんじゃないかな?と僕は思っていたのですが、そういう部分も含めて河野さんなら許してもらえるかなと。そしてもちろん、歌の説得力も踏まえて彼女にお願いしました。

─ ヨコオさんが河野さんの歌声を聴いて、何かオーダーされたことはありましたか?

岡部 最終的にはヨコオさんもすごく気に入ってくださっているんですけど、途中何回か「もっとやってみてください」と言ったくらいで、あまり細かいオーダーは無かったですね。あと河野さんには、どの程度崩せばいいのか、歌としての体をなさないくらい崩すべきなのかとか、そういう部分も含めて何回もトライしてもらっているんですけど、実は最終的にはそれらのテイクを少し僕のほうで編集しているんです。やっぱり、ずっと崩れていると、お聴きいただく方にもしんどい部分がありますから。例えば5段階で5がめちゃくちゃ崩れているとしたら、ベースは4くらいだけど、要所要所で5のテイクを使ったりという編集で組み合わせていった部分もあって。それをヨコオさんにも確認してもらいつつ、完成させた感じです。すごく素材として良いものが録れたから、あとは僕とヨコオさんとのやりとりで構築していきましょうねみたいな感じで、ヨコオさんにもすごく満足していただいたレコーディングになったかなと思いますね。

─ なるほど。岡部さんご自身も満足された出来になりましたか。

岡部 もちろんです。後半の崩れていく感じはヨコオさんがすごく熱望していたものなんですけど、前半の歌い出しのところでは、メインボーカルにちょっと朗読っぽいささやきみたいなものも重ねているんですね。僕は、他のプロジェクトとかでも息の成分だけをボーカルに重ねたりすることがあって。歌の息づかいみたいなものが好きなんですよ。それを強調する意味合いで、息の成分を重ねたりするんです。タイミングはがっちり合わせて、あんまり重なっているようには聴こえないようにやるんですけどね。

今回ヨコオさんからは、「歌に対して、朗読が重なっているみたいなイメージでそれをやるのはどうかな?」と言われたんですよ。僕は音楽的にそれはしんどいなと思ったのですが、「それはタイミング合わせてもいい?」みたいな話をしつつ、一応やってみようかなと思いまして。実際にやったものを聴いてもらって、ヨコオさんにも「これはたしかにしんどいね」と思ってもらったほうがいいかなと。で、実際にそれをまずレコーディングの時に河野さんにやってもらったんですよ。そしたら、ヨコオさんを説得するためにやったつもりが、逆に僕が「ああ、これアリかもしれない!」って気持ちになって(笑)。

─ (笑)。実際にやってみたらアリかも、と。

岡部 そうなんですよ。「ああ、これは面白いかもしれないな」と思って。「これ、アリだからこっちにしましょう」という流れになりました。音楽としてどうこうというよりも、聴いた時の面白みはこっちのほうが強いなと思いまして。そういう意味では、普段音楽を作っている者としてはまず浮かばないであろうアイデアをヨコオさんからいただけて、僕が自分1人だけだったらまずしないところに落とし込めたのは、僕自身にとってもすごく満足度が高いというか、「ああ、いい経験をさせてもらったな」と思えるレコーディングでしたね。


ゲームでさらに映えた、遊園地廃墟の楽曲

─ ありがとうございます。では次に、今回の『ニーア オートマタ』で、特に聴いてもらいたい自信作の楽曲や、聴きどころがあればお聞かせいただけますか。

岡部 どうですか、帆足先生?

─ 帆足さんの楽曲ですと、遊園地廃墟の楽曲が印象的ですね。

帆足 ありがとうございます。いちステージの曲として作っていたんですけど、そんなにまさか、他のステージと並んで注目していただけるとは全然思ってなかったので、結構びっくりしています。

岡部 何かの曲を作る時に「あっ、この曲は良い出来になりそうだな」とか、「これは自分で好きだな」と思っていても、音楽が映像なりゲームなりに実際に組み込まれて商品になると、「曲としてはこっちのほうが好きだったけど、入れ込んだらこっちの曲がすごく映えてきたな!」みたいなケースもあって。遊園地廃墟の曲はけっこうそういう形に近いですよね。

帆足 そうなんです。曲を作る時って、最終的にゲームを遊ぶ方がどういう形で聴くかというのはこちらとしては想像するしかないんですけど、実際にゲームを遊んでみると、このステージの説得力はすごいな!っていう。ステージの外見も相まって、すごく良く聴こえるみたいな。ちょっとびっくりしましたね。

でもどちらかというと、僕が自信を込めて「これかな」と思って作ったのは、Dエンディングの最後のノベルパートで流れる、エミさんが歌っている曲ですね。その曲が一番個人的には、「これはみんな喜んでくれるんじゃないかな」と思って作った曲です。

岡部 あの曲は、AやBのエンディングでも流れますね。

─ ああー!あれ、せつなくて大好きです……!

帆足 ありがとうございます! 一番いいところで流していただいています(笑)。

岡部 そうだよね。あれも、いいところで使っていただいていて、シーンに合ったいい曲だよね。

帆足 本当にありがたいですね。






あのショップの楽曲制作秘話

─ 高橋さんは、何か自信作はありますか?

高橋 僕は、自信と言えるかはまた別なんですけど、とあるキャラのショップの曲ですね。

─ (笑)。あれは高橋さんが作られたのですか……!

高橋 「アレンジ曲だから、メロディも決まっているしできるだろう」と思ってやりはじめたら、けっこう難しくて(笑)。ちょっと音楽的な話になるんですけど、明るい和音か暗い和音かを決める重要な音があるんですよ。ドミソのミみたいな。だいたいあそこに行ってるんですよね、メロディが。

岡部 もともとの仄暗い印象を、メロディが形成してるみたいな感じで。

高橋 そうなんです。メロディがすでに決めちゃっているので、明るいマーチにするというのがけっこう難しくて(笑)。でも、やってみたら出来ましたね。最終的に声優さんの歌が入った時に、「これしかないだろう!」みたいな感じには自分でも思いました。だいぶ振り切ってやったんですけど、作中で見るといい感じの異物感があって。けっこう個人的にはおもしろいかなと思っています。



─ 声優さんのボーカルも何種類か入っていますよね。

高橋 そうですね、いろんなバージョンがあって。声優さんのボーカル録りの時には僕は何も言っていなくて、ヨコオさんがブースに対して何か言うって感じだったんですけど、テイクがそれぞれ1個ずつしかなくて(笑)。

─ えっ、一発録りだったんですか!?(笑)

高橋 はい、「OKです、OKです」みたいな感じで出来ていました。たぶんヨコオさん的には、キャラ立ちのために歌を入れたところがあったんでしょうね。わりと音楽的に見るとリズムがぐちゃぐちゃになっていたりする部分もあったのですが、それを整える時に、どの程度やろう?と悩んだところはあります。

岡部 ヨコオさんからのオーダーが、「わざとヘタに歌ってください」という感じだったんですよ。わざとヘタに歌うって難しいので。

高橋 不自然になっちゃうんですよね。

岡部 そうなんです。おもしろいと思えるヘタさと、単純に聴いていて不快感があるヘタさってやっぱり違うと思うので、それを高橋が編集でいいバランスの落としどころにしてくれました。あと、声優さんの歌は音楽のレコーディングとして録ったわけではなくて、セリフ録音の際に一緒に録ったんですよ。なので、スタジオもレコーディングスタジオではなくMAスタジオでそのまま録ったりして、やや勝手が違うところはありましたね。素材データでいただいて、高橋が構築するみたいな感じでした。

高橋 僕も実際にゲームをやってみたのですが、あれが流れた時に、「ああ、意外といいかもしれないな」と思いました(笑)。

帆足 カオス感がすごいですよね(笑)。すごい勢いで走ってきて、遠くから流れてくるっていう(笑)。

─ 初めて彼に出会った後すぐどこかに行っちゃって、しばらく経ったあとに廃墟都市を歩いていたら、突然あれに遭遇して(笑)。「えっ、なんだあれ!?」ってびっくりしましたよ。なかなかインパクトがありました。

岡部 もともとあの曲は、「街宣車っぽいイメージで使いたい」というオーダーだったんですね。今回、音楽の実装をプラチナゲームズの上田さん(上田雅美氏)に担当していただいたんですけど、上田さんのほうでスピーカーから音が鳴っているイメージになるエフェクトをかけてもらっているんです。しかも、実機によるリアルタイムのエフェクトで。あとは移動車なので、特に後半とかのすごいスピードで移動する時とかは、ドップラー効果みたいなものもついていたりして。

帆足 遠く離れると音が下がりますよね。

岡部 そうそう(笑)。そういう細かな実装の仕方もすごく頑張っていただいたので、高橋が作ったネタっぽさも含めて、いろんな意味で効果が相まって。あれもゲームの中でより一層映えた曲かなと思いますね。

高橋 ユーザーさんのレビューをネットで拝見していると、「すごくシリアスな展開なところで、あれがのんきに入ってくるとイラっとする」みたいなご意見があって (笑)。

帆足 シリアス展開の時にあれが入ってくると、そこの音楽も塗り替わっちゃうからね(笑)。しかも時々早送りだったりするよね。2倍速とかになって。

高橋 いろんな要素が絡み合って、いいインパクトになっていますよね。




岡部氏の思い入れ深い楽曲

─ 岡部さんは、何か自信作や、思い入れのある曲はありますか?

岡部 そうですね……僕はけっこう普段から、「僕はアーティストではなく商業作家です」という言い方をさせていただいているんです。そういう言い方をすると、「ユーザーさんに媚びて作っている」みたいな解釈をされてしまう時もあるんですけど、そういうことではなくて、僕の中では、アーティストというのは自己表現として音楽を作っている方たちだと思っていて。そして、ゲームやアニメなどの作品を構築するために「受け手がどう感じるか」を考えながら音楽を作るのが商業作家だと思っているんですね。今回ももちろんそういう意味で、『ニーア』の新作としてみんなが望んでくれていることとか、「どうすれば作品をより魅力的にできるだろう」ということを考えて音楽を作りました。

ただ、作っている時に自分の中で「これはいいものが出来そうだ」と思う曲はあるんですけど、実際に世に出てみると、自分がそう思っていたものと全然違う曲がご評価をいただくケースもけっこう多いんです。そうなると、すごく僕は単純で、「ああ、言われてみればこっちのほうがいい曲かもしれない」みたいな気持ちになっちゃうタイプなんですよね(笑)。たぶんアーティストの方とかは、「いや、それよりもこっちのほうを聴いてほしい!」って思うのかもしれませんけど。自分の中でも「これがお気に入りで、聴いてほしい」という曲は意外と変わっていったりして、あんまりがっちり固まってる感じではないんですよね。

─ ユーザーさんやファンの方で人気の出た曲を改めて聴いてみたら、「あっ、こっちのほうがいい曲かも」と思ったりする、と。

岡部 そうですね、僕はそういう要素が強い作家かもしれないです。あと、僕が曲を作る際は感覚的に作る部分もあるんですけど、ある程度コンセプトを最初に考えて、「この曲はこういう役割で、ユーザーさんにこう感じてほしい」と思って作るケースが多いんですね。でも今回、前作を好きだった方がまた「いいね」と言ってくださるかな?と思って作った曲が、意外と「使いどころに困ったのかも?」みたいなケースが多くて(笑)。さっき帆足が言っていたラストでかかる曲とかは、最初からあのシーンで使う前提だったんですよね。使う場所も明確に決められていたし、使いどころは困っていないと思うんですけど、それ以外の「すごくいい曲」みたいな定義を僕の中でしている曲って、サブクエストでしかかからない曲もけっこう多くて。確かに実際自分もゲームをやってみて、「ああ、これはちょっと印象薄いかも」と思ったりして(苦笑)。そうなってくると、自分の中のランキングもどんどん変わっていくみたいなところは正直ありますね。

それ以外で言うと、エンディングの「Weight of the world」ですね。この曲は、露出度的にも最初にバーンと公表させていただいた曲でしたし、最初から使いどころも分かっていましたし。シンガーさん別のバージョンもあったりして。あと、初めてジュニークさんのレコーディングをしたのもこの曲だったので、思い入れはけっこう強いですね。


縁の下の力持ち、上田雅美氏

─ さきほどプラチナゲームズの上田さんのお話が出ましたので少しお聞きしたいのですが、音楽の実装をされた上田さんとは、どのようなやりとりをされたのでしょうか?

岡部 僕は大阪に行かせてもらったりもしたので、比較的上田さんとは多くやりとりさせていただきましたね。帆足や高橋の曲も含めて、基本僕が窓口でした。最近のコンシューマーゲームでは、音楽の実装を行う際はミドルウェアを使うケースが多いんですけど、ミドルウェアによってできることが微妙に違うんですね。で、最初に僕が上田さんにお会いしてご挨拶した時に、「今回、リアルタイムでこういう効果演出ができます」というデモのムービーを、上田さんが作ってくださっていたんです!

─ そうなんですか! わざわざデモムービーを。

岡部 はい。今まで僕はいろんなプロジェクトに携わらせていただきましたけど、そういう形のデモムービーを、マニュアル的な感じで作ってくださる方は初めてでした。もちろん、ちゃんと説明してくださる方はいっぱいいらっしゃいますけど、やっぱり言葉だけでの説明と、実際に絵と音で見せて説明していただけるのは全然違いますからね。たぶんそれなりの手間がかかっていると思うんですけど、すごくちゃんとされている方だなと思って……。そこでもう、かなり安心感というか、「いろいろ頼ったり、お任せしても大丈夫だ」という信頼感が生まれた感じはしましたね。なので、あまりこっちが「もっとこうしてください、ああしてください」と言う必要もなくて。その後、曲を渡して実装してくださるのも、すごくいい使い方というか、クオリティの高い演出であったり、調整もすごく細かくしてくださって。こちらで確認させていただくやりとりはあったんですけど、こちらが修正依頼を出すようなことはほぼ無かったですね。

帆足 あのデモムービーはすごかったです。みんなで見て「おおーっ!」って歓声を上げてましたもんね(笑)。曲にいろんなリアルタイムのエフェクトをかけて、各ケースごとに説明テキストが入りながら全部見せてくださるんですけど、みんなで、「へぇー!今こんなことできるんだー!」って(笑)、感心しながら見ていました。


シームレスに変わる、ハッキング音楽

─ リアルタイムに音楽が変わるといえば、今回、9Sがハッキングを行う時に、音楽が切れ目なくシームレスに変わっていくのがすごいなと思いました。

岡部 そうなんですよ。あれも、もちろん最終的には8bitのアレンジのものに普通のフルアレンジのものから変わっていくんですけど、単純に波形と波形をクロスフェードしているわけではなく、もともとの曲からちょっと8bitっぽい、bitを落とすエフェクトみたいなものをかけながら、最終的には8bitの音に繋がる……という演出をしてくださっているんですね。あとはハッキングの時以外にも、たとえばステージ曲だとだいたい3段階くらいダイナミクスが違うバージョンの曲を用意しているんですけど、それは全部時系列が同じ感じで作っているんです。要はそれが常に並んでいて、それがこちらに飛んだりあちらに飛んだり……というのをプログラムでリアルタイムに制御していただいている感じで。それと同じように、8bitっぽい音源にも行く感じでハッキングの際の演出がされています。

─ 同じ時系列上にそれぞれ違うバージョンの音源が並んでいて、それをリアルタイムに制御しているわけですね。

岡部 そういうことです。僕は最初、ボリュームや波形を切り替える形で変化させていくものと思っていたんですよ。普通のダイナミクス変化ならそれで全然問題ないんですけど、やっぱり8bitっぽい音源と普通のちゃんとミックスした音源って、乖離がすごくあって、どうしてもクロスフェードしてる感が出ちゃうんですよね。普通の曲を8bitっぽく聴かせるリアルタイムのエフェクトもあったんですけど、それはやっぱり不自然で、ただジャリジャリしていくみたいな感じとか、「8bitっぽいけど8bitではないよね」みたいな感じだったんです。なので最終的には、ずっとリスニングする状態になるものとしては8bitのものがあったほうがいいよねということで8bitバージョンの音源を作りました。さらに、普通の音源からシームレスにブワッと8bitっぽく変化していく部分は、単純にボリュームで切り替わるだけではなく、“リアルタイムにモーフィングしていく”感を上田さんのほうで出してくださっています。

変化する際の時間がもっとゆっくりだと、モーフィングしていく様子がすごく顕著に分かるんですよ。ただゲーム性的にも、ブワッと切り替わるタイミングがけっこう早かったり、あとは「エフェクトの面白さは伝わるけど、ちょっと不快感があるから、やっぱり聴いていて快適なものがいいよね」的なところがあったりして、最終的にああいう落とし所にしてくださっているんです。なかなか伝わりづらい部分だと思いますが、それをやっているかやっていないかでは、全然違うクオリティになっているかと思いますね。

帆足 画面もちょっとモーフィングっぽいエフェクトになっていて、すごく合ってますよね。

岡部 そうそう。音楽を作った側からすると、すごく細かく色々やってくださっているのが分かるんです。おそらく、実際にプレイしてくださっている方は、あんまり気づかないところだと思うんですよ。うまくやればやるほど、たぶん気づかない(笑)。「違和感を持たせない」というのがすごいことだと思いますね。そういう部分も含めて、上田さんには本当に、音楽を良く聴かせてくれるためのいろんなことをすごくやっていただいたな、と感謝しています。


アレンジ曲について

─ 「イニシエノウタ」、「全テヲ破壊スル黒キ巨人」といった前作からのアレンジ曲がたびたび流れるのが前作からの『ニーア』ファンとしてはたまりませんでした。前作の音楽を使用するのは、どなたからのオーダーだったのでしょうか?

岡部 あれは、プロデューサーの齊藤さんからオーダーがありました。やっぱり、前作の音楽を気に入ってくださっているファンの皆さんも多いので、ファンサービス的な意味合いでアレンジ曲を入れると、ファンの皆さんが喜んでくれるのではないかという齊藤さんからのご提案があって。僕とヨコオさんも賛同したので、じゃあアレンジ曲を入れましょう!と。けっこう、前作の人気曲が色々と入ってるんですよね。

─ そうですよね、「イニシエノウタ」と「全テヲ破壊スル黒キ巨人」と、「エミール」と……。

岡部 あと「オバアチャン」もバトル曲として入っていますね。

帆足 そのくらいですね、アレンジは。

岡部 あと「カイネ」も、前作のままサブクエストで流れるところがありますね。


ジュークボックスについて

─ レジスタンスキャンプに設置されているジュークボックスでは、曲調やボーカルの有無を選べたりするなど、自由に音楽を楽しめるのが印象的でした。このジュークボックスは、どなたの発案で入れられたのでしょうか?

岡部 発案された方はわからないんですけど、僕らも知らなかったです(笑)。開発の最後のほうに、「こういうジュークボックスが入るので確認してください」と連絡があったので確認させてもらったんですけど、「あ、こんなに聴かせちゃうんですか……!?」と(笑)。

帆足 けっこうびっくりしましたよね(笑)。

高橋 全部聴ける!?みたいな。

岡部 実際にはもっと細かく分かれているところもあるんですけど、「これだけで聴かせるのはちょっと……」みたいなところは、やっぱり上田さん自身も音楽を分かっていらっしゃる方なので、その辺はすごくいい判断をしていただいていますね。音楽として聴いていただくところの範疇の線引きをしてもらっている感じで、ユーザーの皆さんにもかなり楽しんでもらえると思います。

帆足 あれ、嬉しいですよね。

岡部 うん。ただあれをやられると、サントラが……って気持ちに少しなっちゃうんですけどね(笑)。「そうか~、こうやって聴かせちゃいますか~」って(笑)。

─ でも、サントラで、生活の中で音楽を聴きたいという方も多いと思います!

岡部 そうですね。ただ、ああやってバラバラにしてサントラに入れると、すごい物量になっちゃうんですよね(笑)。前作の時も、けっこう分けて入れている部分もあったりして。

─ 色々なバージョンごとに収録されていたりしましたね。

岡部 そうなんです。今回、サントラの作業をするにあたって、どういう風にまとめていこうかというのは結構悩みどころではあったんですよね。今回スクエニさんが3枚組にしてくださったので、前作の時よりはいろんなバージョンを入れても大丈夫かなと思っていたんですけど、実際やると、意外と3枚とかあっさり埋まっていっちゃうなと(笑)。

帆足 全部普通に列挙していって、全然入らなかったですよね。

岡部 そうそう。なので実際にゲームの中で使われている音楽で、ユーザーさんに、「こういうバージョンがゲームにはあったのに、サントラに入ってない!」的なお声は前回もけっこういただいたので、今回は使われている曲をリスト化していただいて、それを踏まえてサントラを作っていきました。

帆足 サントラとジュークボックスの両方あれば、お好きな曲を聴けてユーザーさん的にはより楽しめるかなと思います。

岡部 そうですね。


サントラの特典CDにはハッキングの音源が!

─ サントラのお話が出たのでお聞きしたいのですが、初回特典のCDにはハッキングの時の音源が収録されるのですね。ハッキングの曲がすべて入っている形でしょうか?

岡部 そうですね、全部入っている感じです。

─ フィールドの曲など、いろんな曲の8bitバージョンが入っていると。

岡部 そうですね。バトルとフィールドの曲はほぼ入ってます。

帆足 ゲームの特性上、どこでもハッキングできる感じですから、どのステージの曲も8bitのものに切り替われないとって感じでしたもんね。

岡部 そうそう。なので、作ったものは全部入っていますね。初回特典という形なので、あとで知った方が手に入らなくなってしまう可能性があるのはちょっと申し訳ないなと思うんですけど。サントラを作る時に、8bitのバージョンをどうするかという話になっていたんですよね。あれを入れるとなると、CDの枚数を増やすなり別の曲のバージョンを削るなりしていかないといけないわけですけど、青天井にどんどんCD枚数を増やしていくわけにもいきませんから。あと、8bitバージョンを聴きたいと言ってくださる方もいっぱいいらっしゃるとは思うんですけど、リスニングとしてあれは特に必要ない、と思われる方もいらっしゃるだろうなというのがあったので。CDを1枚増やしてその分お値段が上がるよりは、特典という形にしましょうと。スクエニさんとも相談して、ああいう形にさせていただきました。


スタッフの皆さんによる合唱!

─ Eエンディングの最後の演出やコーラスにとても感動したのですが、歌い手さんのクレジットには、岡部さんやヨコオさんらのお名前が入っていますよね。あのコーラスは、スタッフの皆さまも参加して歌われたのでしょうか?

岡部 そうなんです。あれは、開発の皆さんにできるだけ……全員とは言わないけれどできるだけ歌ってもらいたいという要望を出しました。ヨコオさんも歌っていますし、僕らも歌っていますし。齊藤さんもそのためにわざわざMONACAのスタジオに来て歌っていただきました(笑)。プラチナゲームズの方たちにも歌っていただきましたし。それを重ねていって作った合唱ですね。

帆足 ものすごい人数が歌っていますよ。

─ かなり大人数ですよね。20人とか30人どころじゃなく、もっと多いでしょうか?

帆足 ええ。もっと行ってますね。

岡部 ただ開発の人間だけだと、おっさん度合いが高くなって、ボテッとした音になるんですよ(笑)。なので、できればスタッフのご家族や、スタッフの中に女性の方がいらっしゃったらぜひ歌ってもらいたいですとお願いしました。あと、大阪のプラチナゲームズさんにも、上田さんに録っていただいた歌声のデータをいただいたりして。本当にたくさんの方に歌っていただきましたね。

ヨコオさんからは最初、演出として単純に「合唱を入れたいんだ」というぐらいの感じだったんです。でもコーラスを録っていく途中で、ヨコオさんから演出の意図を聞いて「なるほどな、面白い演出だな」と思ったので、できるだけ面白い形でいけるといいなと思って、ああいう形にさせてもらいました。演出的にもそうですし、作品のコンセプト的にも“自己と他者”みたいなところがゲームとしてはあるのかなと思うので、すごく意味のある音楽演出になったかなと思いますね。


「気持ちを動かせる」サウンドを目指す

─ ここで少し趣を変えまして、MONACAさんのサウンドづくりについてもお聞きできればと思います。MONACAさんはゲーム、アニメ、映画などの幅広いサウンドを手掛けられていますが、音楽制作を行う際に心がけていることや、信念がございましたらお聞かせください。

岡部 そうですね……どのプロジェクトでも言えるんですけど、まずはオーダーがあって音楽を作るわけなのですが、「こういうシーンに対してこういうオーダーが来たら、これが正解ですよね」という、大概みんながイメージするものがあると思うんです。そこをあえて外すみたいなこともあるんですけど、基本は、監督なりディレクターからの「こういう演出意図があるから、こういう曲がほしい」というオーダーに対して、その役割をちゃんと果たすのが僕たちに課せられている一番プライオリティの高い大事なことだと思っています。それが、さっきのお話にも出た「アーティストと商業作家の違い」だと思っている部分もありますね。プロとしてお金をいただいて、発注されて音楽を作るというのはそういうことだと思うので。そこを何よりも重要視することが大事だと思っています。

ただ、それだけで終わると本当に味気のないものというか、合理性みたいな話になっちゃうと思うので、そこから先が僕らの腕の見せ所だと思っていて。まず押さえるべきところを押さえたうえで、なおかつ「音楽としてもいいよね」と思っていただけるところがどれだけ出せるかによって、商業作家としての価値が出るのかなと思っています。僕たちが作るもの以外でも、世の中には良く出来ている音楽って本当にごまんとあると思うんです。もちろん、良いものにするための努力はしないといけません。ただ、まず第一に演出意図や作品のために必要な役割を踏まえたうえで次に来る大事なこととしては、よく出来ている以上に、「気持ちを動かすことができるかどうか」ということを重要視するべきかなと僕は思っているんです。

─ 気持ちを動かす、ですか。

岡部 はい。MONACAの音楽は、良く出来ているかどうかで言うと拙い部分もあると僕は思っているんですけれども、ただそれ以上に、「気持ちを動かせるためのもの」ということを優先して作るように、僕も他の作家陣も心がけていますね。

─ 帆足さんと高橋さんはいかがですか?

帆足 そうですね……先ほど岡部さんが言ったこともそうなんですが、あとはやっぱりいただいたオーダーに対して、どういうものが好きなお客様が聴いてくれるのかな?ということをタイトルなどから想像します。そして、そういう人たちが心に残るシーンや、ワクワクしたりするものは何かな?と考えて作るのを一番優先していますね。そのうえで、さらに自分のやりたいことを入れて自分的な味付けみたいなものを壊さない程度にできたらいいなと。そのバランスは、いつもすごく気を使っています。

高橋 2人の発言と重なるんですけど、一番はやはり、「機能を果たす曲」を作るということですね。僕は劇伴をやることが多いから余計にそうだと思うんですけど。歌はまた別の話になってくると思うのですが、劇伴はやっぱり物語があって演出があって、そのための機能がほしいから曲を当てたいという話だと思うので、「機能を果たす」ということが大前提にあります。そのうえで、どうしようかなとアイデア出しをするという。その順序を一番大事にしています。

岡部 うん。プライオリティを間違えないように、というのはすごく言っていますね。

高橋 そうですね。ただ単に自分のやりたい曲をぶつける、という順序では考えないようにしています。


ゲーム音楽の制作で気をつけていること

─ ゲームの音楽には、ループがあったりなど他のジャンルにはない独特な要素も多いと思いますが、ゲーム音楽を作るうえで気をつけられていることはありますか?

岡部 そうですね……僕は、仕事で音楽を作ることを最初に経験したのがゲーム会社だったので、いろんな意味でベースになっているのが、ゲームに入れることを前提にした音楽づくりなんです。特に、僕が仕事を始めた頃って、まだ音楽をストリームで流せないような時代だったので。基盤をプログラムして音楽を作っていく感じだったんですよね。

─ 内蔵音源の時代ですね。

岡部 そうですね。その時代は足かせみたいなものがすごく多かったんですけど、今はもうほぼそういうものが無くなっているので、あんまりゲームだから苦労するってことは無いですね。ループすることもそんなに難易度は高くないですし。ただ、僕はアニメの劇伴の仕事を後から始めたので、そっちのほうが苦労した感じはあるんですよね。たとえば帆足や高橋の音楽を聴くと、すごく映像音楽っぽいなと僕は思っていて。それと今回の『ニーア』もそうなんですけど、3人の曲が混じった時に、僕の曲って圧倒的にゲーム音楽っぽいなって思うんですよね(笑)。僕はあんまり考えないと、むしろ自然にそうなっちゃうみたいなところがあります。どちかと言えば、2人のほうが何かゲーム音楽に対してあるかもしれないですね。

帆足 劇伴は基本的に映像に当てる音楽なんですよね。映像って、ユーザーさんが何もしていなくてもリアルタイムでずっとそのまま一定の時間軸で動いていくんですけれども、ゲームの音楽はユーザーさんの操作に曲の切り替えを委ねるところが大きいじゃないですか?ステージを移動したりとか。なので、たとえば1曲の中でものすごい盛り上がりと盛り下がりのある、歌ものみたいなものにしてもそれは成り立ちません。そういう意味では、ちゃんと状況に合わせてループするうえで、テンションの上下感があまり大きくないようにとか、「実際にプレイするとなると、どうだろう?」ということを考えながら作らないといけないので、だいぶ手法としては違いますね。劇伴だと、映像に合わせてすごく落としたところからガーッと盛り上がったりすることは結構あるんですけど、ゲームだとあんまりそういうことは無いですね。

高橋 そうですね。大きくテンションを変えない、というのはゲーム音楽独特の要素な気がします。

帆足 もちろん、ゲームの中でもムービーのシーンとかだったら劇伴と一緒の作り方でいいですし、あとはクライマックスのボス戦とかですごい展開を入れたりするっていうのは意外性もあって面白いと思うんですけど、基本的にはあまりテンションの上下が激しすぎると、聴いているほうも困っちゃうと思うので。

岡部 実際の状況と音楽のテンションが噛み合わなくなっちゃうからね。

帆足 そうなんですよね。プレイヤーの方が操作してもいないのに、時間経過によって大きく変わっていくみたいな風だと、やっぱりプレイヤーさんとしては。

高橋 悪い意味で音楽が目立っちゃいますね。

帆足 そうですね。困惑しちゃって、没入感も削いじゃうだろうなと思うので。そこは気をつけています。

岡部 正直「ゲーム音楽」というジャンルの音楽的な特性はもう存在していないのかなと僕は思っているんですね。音楽としての要素というよりは、そういう“演出面でのありかた”の違いがたぶんゲーム音楽だと思うんです。

帆足 今はもう、他のジャンルの音楽をそのままゲームに流したりもできますからね。

岡部 そうですね。ただ、僕らが音楽を作る時も、ゲームのほうがより押しが強めの曲というか、「メロディがはっきりしているほうがいいんじゃないか」とかそういう意識の差はもちろんあるんですけど、ただそれも極端に言うと、ゲームだからというよりは“この作品だから”みたいなところもけっこうありますから。音楽としてのジャンルの違いというよりは、作品ごとの違いだったり時系列の演出の違いだったり、さっき『ニーア』のお話であった、何かフラグが立つと音楽が変化するシステムみたいなところが、ゲームだからこそできる音楽の演出かなと思います。そういう感覚で切り替えている部分はあるかもしれないですね。


『ニーア』コンサートについて

─ 4月と5月には、大阪・東京で『ニーア』のコンサート「人形達ノ記憶」が開催されますね。どのようなコンサートになるのか、現状明かすことのできる範囲で結構ですのでお聞かせいただければ幸いです。

岡部 今回は朗読劇も入るので、そういうストーリー要素も絡めて考えています。曲順はヨコオさんも交えて決めていく感じになると思うんですけど、今現状としては、演奏する曲を洗い出して、大体こんな感じの流れかなというのが決まってきた感じですね。

─ 基本的には『ニーア オートマタ』の曲が披露されるのでしょうか?

岡部 そうですね、その予定です。ただ来てくださる方に「来てよかったな」と思ってもらえる形にしたいと思っているので、『ニーア オートマタ』だけにするのかどうかとか、全体の流れも含めて考えていきたいなと思いますね。


ぜひゲームで音楽を体感してください!

─ では最後に、『ニーア』ファンの方々と、『ニーア』をまだご存知ない方々へ、それぞれメッセージをいただければと思います。

高橋 今回『ニーア』に参加させていただくにあたって、前作のファンの方の愛がものすごく濃い作品だなと思っていたので、けっこう緊張しながら曲を作らせてもらいました。それで前作のファンの方が僕の曲を聴いて喜んでもらえれば最高だし、許してくれればいいかなっていう気持ちで今もいるんですけど(笑)。まだ『ニーア』をプレイされていない方は、すごくゲームとしても面白いので、ぜひやってほしいなと思っています。

帆足 『ニーア』ファンの方に対しては、本当に今までずっと熱量を絶やさないでいてくださったおかげで、音楽制作の際のモチベーションを保てました。そして、ファンの方にまずやっぱり喜んでいただきたいというのはもちろん、新規のお客様にも喜んでいただきたいという思いで制作をしてきました。あと、高橋も言っていますがどういう風に「ニーアらしさ」を込めたら、ファンの方に許されるだろうかっていう(笑)。そういう気持ちでしたね。やっぱりファンの方の熱量がものすごいので。これはもう、世間的な評価を見ていても、長い年月で熟成されて、実際よりも美化されているのではないか?とか(笑)。その落差に耐えられるようなものを……「私が想像していたのはこんなのじゃなかった!」とか言われないように頑張って作らなければ!という思いで一杯でした。頑張って作ったので、ぜひ聴いてみていただければと思います。『ニーア』をご存知でない方は、ゲームが面白いので、ぜひゲームをプレイしてもらえたらと。そして音楽にも時々耳を傾けて、「いいな」と思っていただければ嬉しいです。

岡部 今の2人の発言を聞いていただいても分かる通り、正直僕も含めてまあまあのプレッシャーの中で作ってた感があって(笑)。やっぱりファンの方に喜んでほしいというのが大前提で、そういう意味合いでのプレッシャーがありましたから。ファンの皆さまに喜んでもらえることが、僕達にとってのなによりのご褒美でもあるので、喜んでもらえたら嬉しいなと思います。ただ、僕らは音楽としていいものをもちろん目指しているんですけど、プライオリティとしてはそれが一番ではないんです。やっぱり『ニーア』の世界を作るために音楽を作った部分が一番役割としては大きいので。前作では思いのほか、「ゲームはやってないけどサントラ買いました」「音楽だけ聴きました」と言ってくださる方が多かったんですよ。もちろんそれもすごく嬉しいんですけど、やっぱり僕達が目指したものって、一番の大きな役割としては『ニーア』の世界観をより豊かなものにしたい、独特の世界観を構築したいという思いで作っているんです。なので、お時間とか金銭的なこととかいろんな事情があると思うんですけど、もし興味を持っていただけたら、やっぱりまずはゲームの中で音楽を体感してほしいなと思いますね。映像やゲームの音楽を作る者としては、その中でそのタイトルの世界観に浸ってその音楽が本当にいいと言ってもらえるのが何よりの幸せなので。そういう形で聴いてもらえると、本当に嬉しいです。でもサントラを買ってくれるのも、すごく嬉しいです(笑)。

帆足 みんな喜びますね!

岡部 はい。まず音楽を聴いてくれるだけでも嬉しいです。音楽の聴き方に正解なんてありませんので、音楽を聴いてくれて気に入ってくれたら本当に嬉しいなと。そういう思いで作りました。なので、ぜひ楽しんでください!






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