ゲーム音楽専門のプロオーケストラ「JAGMO」が、『ポケットモンスター』『ファイナルファンタジー』などのゲーム音楽を演奏するフルオーケストラコンサート、『THE LEGEND OF RPG COLLECTION -伝説の交響楽団-』を、2月7日と8日に五反田ゆうぽうとホールで開催します。
今回は「JAGMO」の代表取締役である泉志谷忠和(みしやただかず)氏に、コンサートで演奏される楽曲のコンセプトや、今後のJAGMOのビジョン、ゲーム音楽に懸ける想いなどについてお話をうかがってきました。ゲーム音楽への熱い想いを抱く泉志谷氏。その目は、何を見据えているのでしょうか。
―― 本日はよろしくお願いいたします。
泉志谷 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
―― さっそくですが、2月7日・8日開催のコンサート『
THE LEGEND OF RPG COLLECTION -伝説の交響楽団-』についてお聞きしていきたいと思います。今回は『ポケットモンスター』や『ファイナルファンタジー』、『クロノ・トリガー』などの楽曲が演奏されますが、どういったコンセプトで選ばれたのでしょうか?
泉志谷 もともと僕は、ゲーム音楽が大好きなんですよ。大学時代にレポートを書いている時もずっとゲーム音楽を聴いてて。つらいときは『ドラゴンクエストIII』の「冒険の旅」を聴いてましたね。あれはもう、好きすぎて。
―― あれはテンション上がりますよね! 特にオーケストラ版は。
泉志谷 上がりますよね! よし、行くぞって。血沸き肉躍るようなものがあるじゃないですか。あれを聴きながらがんばっていました。僕、初めて行ったゲーム音楽のコンサートは、2004年の「TOUR de JAPON」(ツール・ド・ジャポン)という『FF』のコンサートだったんですよ。大阪公演の時に1人でチケットを握りしめて、ちょっと緊張しながら行きました。
―― 2004年ということは、今からちょうど10年ほど前ですね。
泉志谷 そうですね。そのコンサートにすごく感動して。自分の中でも、「こういうゲーム音楽のコンサートがあったらいいな、夢みたいだな」という想いがずっとあったんですよ。今回はそれを形にしてみました。ゲーム音楽ファンとして、「こういうゲーム音楽コンサートだったら絶対行きたい!」って思うような選曲にしています。
―― なるほど。では、各タイトルについてお聞きしてよろしいですか。
最初は『ポケットモンスター 赤・緑 冒険曲メドレー』ですね。
第一部:
■ポケットモンスター 赤・緑 冒険曲メドレー
「オープニング」
「マサラタウンのテーマ」 「トキワへの道ーマサラより」
「サイクリング」「サント・アンヌ号」
「タマムシシティのテーマ」 「カジノ」
「ロケット団アジト」 「戦い(VS ジムリーダー)」
「最後の道」「ラストバトル(VS ライバル)」
■ ポケットモンスターシリーズ バトルメドレー
「戦闘!ゼクロム・レシラム」/『ポケットモンスターブラック・ホワイト』
「戦闘!プラズマ団」/『ポケットモンスターブラック・ホワイト』
「戦闘!チャンピオン」/『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』
「戦闘!アクア・マグマ団」/『ポケットモンスター ルビー・サファイア』
「戦闘!ともだち」/『ポケットモンスター X・Y』
「戦闘!チャンピオン」/『ポケットモンスター金・銀』
泉志谷 はい。メドレーにしているのは理由があって、冒険を体感してほしいんですよ。ポケモンという物語を抽象化すると、田舎町の少年が、ポケモンマスターになるという夢を抱いて、マサラタウンという田舎町から親元を離れて旅に出るわけじゃないですか。それってすごい覚悟だと思うんです。「トキワへの道ーマサラより」は、愉快な曲に聴こえますけど、そういう少年の決意を頭の中に思い浮かべると、すごく希望と不安が入り混じっているんじゃないかなと思える楽曲で。「サイクリング」は自転車で疾走できるわけじゃないですか。それは、そんな少年の不安を払拭していくようなイメージを持たせたい。そういうことを編曲家と話をしました。
「サント・アンヌ号」はそんな少年にとって初めての豪華客船で。「テレビでしか見たことがなかったのに、初めてこんな大きな船を見た!」みたいな、そういう驚きや、高揚感のようなものが音楽で出せるところだと思うんです。タマムシシティは言ってしまえば繁華街だから、初めて出てきた銀座や渋谷のようなドキドキワクワク感がないといけないし。ロケット団は、その繁華街に根付いたマフィアの部下で。タマムシシティにカジノがあって、ロケット団がいて……というのは現代社会ともリンクするし。そういう世界観を楽曲の中に表現できないかと、編曲家と相談しました。
―― 編曲家さんとは密に相談されてるんですね。
泉志谷 そうですね。その後は、ジムリーダー戦、最後の道、ラストバトルと続くんですけど、そこからは最後のバトルで、さあポケモンマスターになっていくぞ!みたいな。そんなポケモンの全体の世界観を表現して、ポケモンという作品を知らない人でも、いっしょに冒険できるものにしたいなと思いました。
―― ゲームをプレイしたことがない人でも、一緒に楽しめると。
泉志谷 そうです。ポケモンの物語が演奏で表現できればいいなと思って作っています。だからポケモンを知らない人でも、言葉による説明がなくても、音楽を聴いて想像してもらえるような、そんな演奏を目指したいなと思います。
―― なるほど、ありがとうございます。次は、『ポケットモンスターシリーズ バトルメドレー』ですが、これは歴代のシリーズから多数演奏されるんですね。
泉志谷 はい。今回のポケモンの演奏は、宝塚に近い設定なんですよ。宝塚の公演って、まず第一幕で物語をバシッと見せて、後半は、様々な物語にショーが入るんです。なので今回のバトルメドレーでは、歴代のポケモン作品のいろんなバトルシーンを紹介しようという狙いがあって。いろんなポケモンのいろんなバトルシーンを次々に入れ替わり立ち替わり演奏して、ポケモンのシリーズ全体を紹介できればいいなと思って構成しました。ポケモンは赤緑だけじゃなくて、長くシリーズとして続いてますからね。
第二部の『クロノ・トリガー』も、ポケモン赤・緑の冒険曲メドレーと同様、物語に沿った曲順になっています。
第二部:
■ クロノ・クロスより
「時の傷痕」
■ クロノ・トリガーより クロノ・トリガーメドレー
「クロノとマール〜遠い約束〜」〜「クロノ・トリガー」
「やすらぎの日々」〜「風の憧憬」〜「時の回廊」
「ガルディア城〜勇気と誇り〜」〜「王国裁判」
「カエルのテーマ」〜「魔王決戦」
「世界変革の時」
―― 「クロノとマール〜遠い約束〜」から始まる理由は何かあるんですか?
泉志谷 これはプレイステーション版なんですよ。PS版のオープニングムービーはこの曲から始まりますよね。
―― そういうことですか!
泉志谷 おそらくPS版をプレイされた方も多いかなと思って。スーパーファミコンって僕らよりちょっと上の世代なんですよ。でも僕らの世代にフォーカスするとPSですから。あのオープニングムービーを思い浮かべてもらえるんじゃないかなと思います。
―― 第三部の『キングダムハーツII』の選曲についてもお聞かせいただけますか。
第三部:
■ キングダムハーツIIより キングダムハーツメドレー
「Dearly Beloved」
「Old Friends,Old Rivals」
「Roxas」
「Tension Rising」
「Darkness of the Unknown」
泉志谷 『キングダムハーツII』は、組曲形式にしようと思って編曲家と相談したんです。最初の「Dearly Beloved」はシリーズ共通のタイトル曲ですね。その後の「Old Friends,Old Rivals」はすごくコミカルな曲なんですけど、そこでちょっと間奏曲も入れています。『キングダムハーツ』って、光と闇の物語のイメージがあって、最初の「Dearly Beloved」では、光はまだ意識がないんですよ。で、闇の中にふわっと浮かんだ光が内声部で表現されるんです。その光が巻いた後に主人公が登場するけれども、まだ力強くない……ような。主人公が成長していく過程を描きたいねという話を編曲家としました。「Roxas」は、タイトルの通り、ロクサスというキャラクターにフォーカスを合わせています。その後、ガラリと変わる「Tension Rising」は、すごく怖い曲で。イメージは闇と光が戦ってるんですよ。最後の「Darkness of the Unknown」はすごく激しい戦いの曲なんですけど、光が意志を持ち始めて、戦い始める……みたいな。そんな激しい戦いの後、最後は光が全面に広がるようなものにしたい、というコンセプトのもとに、ストーリー重視というよりは、イメージベースで選曲しましたね。キャラクターもストーリーもすごく深いから、限られた時間の中ではやりきれないなと思って。なので、光が闇と戦うというコンセプトを持ち選曲しています。難解な曲も多いですし、苦戦しました。
―― 物語も複雑ですからね。
泉志谷 そう、複雑なんですよ。だから、もし掘り下げていくとしたら『キングダムハーツ』だけのコンサートにしないと深堀りしきれないなと思います。
―― 『キングダムハーツ』のコンサート、いいですね。もし開催されたら行ってみたいです。続いては、第四部『ロマンシング サ・ガ3』についてお聞きしていきます。こちらはバトル曲のメドレーなんですね。
第四部:
■ ロマンシング サ・ガ3 バトルメドレー
「オープニング」
「四魔貴族バトル」
「四魔貴族バトル2」
「玄城バトル」
「ラストバトル」
泉志谷 そうなんです。『ポケモン』や『クロノ・トリガー』はストーリーがあって、『キングダムハーツ』でもちょっと難解になるので、ワッと盛り上がる疾走感があるものにしたいなと思って。全体の流れから見たときの選曲にしてますね。盛り上がって、「なんだったんだ今のは……」ってなりながら休憩、みたいな(笑)。もしストーリーを追ってやるなら、とことん深くやったほうがいいでしょうね。『ロマサガ』単体のコンサートで深堀りして。
―― 第五部は『FF』が演奏されますが、各公演で楽曲が違うんですね。
第五部:
■ FINAL FANTASY シリーズ
( 2015年2月7日 [昼] )
反乱軍のテーマ
独りじゃない
ビッグブリッヂの死闘
妖星乱舞
Don’t Be Afraid
Eyes On Me
( 2015年2月7日 [夜] )
反乱軍のテーマ
独りじゃない
エアリスのテーマ
妖星乱舞
ザナルカンドにて
素敵だね
( 2015年2月8日 [昼] )
反乱軍のテーマ
独りじゃない
愛のテーマ
Don’t Be Afraid
ビッグブリッヂの死闘
ゴルベーザ四天王とのバトル
Melodies Of Life
泉志谷 そうなんです。はじめの2曲「反乱軍のテーマ」「独りじゃない」は、三浦文彰くんというソリストを迎えて、彼のヴァイオリン協奏曲で演奏します。彼はハノーファー国際ヴァイオリンコンクール(※)という、ヴァイオリンではもっとも難しいコンクールを16歳で優勝した天才少年なんです。その2曲は3公演とも共通となります。
※ハノーファー国際ヴァイオリンコンクール……3年に1度ドイツで開かれている、国際的なヴァイオリンコンクール。
今回は『FF』をパラレルワールドにしよう、というコンセプトで演奏するんです。最初の2曲から分岐して、パラレルワールド化していって。CLAMPさんの『ツバサ』のように、いままでのCLAMP作品のいろんなキャラクターが出てきて、違う世界に行ったら別の人たちがいるみたいな。『FF』ってシリーズも多いし、キャラクターも愛されていますから、そういう世界を表現したら、いろんな『FF』の世界に行ってみたくなるんじゃないだろうかと思って。
2月7日の昼公演は、最後に「Don't Be Afraid」と「Eyes On Me」で『FFVIII』中心の世界で、けれども色々混ざってるみたいな。2月7日の夜公演は「ザナルカンドにて」と「素敵だね」で、『FFX』の世界なんですよ。2月8日の昼公演は「独りじゃない」「Melodies Of Life」で、『FFIX』の世界なんです。そういう、パラレルワールド的な選曲にしています。
―― すごいですね……。でも確かに、最近はいろんな作品のキャラクターが一緒になったりしてますからね。『ディシディア ファイナルファンタジー』とか。スマホで出ている『ファイナルファンタジー レコードキーパー』もそうですし。
泉志谷 ええ。だから最近の『FF』を見て、自分なりに解釈してやってます。本当に『FF』の音楽はどれもいいですよね。好きすぎて、ひとつひとつの曲への愛を語りはじめると、時間がいくらあっても足りないです(笑)。
⇒【後編】泉志谷氏が見据える、JAGMOとゲーム音楽演奏の未来