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「植松伸夫の10ショート・ストーリーズ」について

その4:触れて見る、音楽の大切さ


斉藤 今度はCDに付いているブックレットについてなんですが、
ジャケットと同様に随分こだわったとお聞きしました。

植松 あのイラストは高校時代の友人に描いてもらったんです。
今はイラストレーターをやっているんですけど、
1曲1曲に絵をつけてもらいました。

昔はドーナツ版のシングルレコードというのがあって、
500円ぐらいで売っていたの。
ジャケがちゃんとあって、そういうのをイメージして
描いてほしいとお願いしました。

斉藤 レコードが入っていてもおかしくないデザインですよね。

植松 今はダウンロードの時代になってしまったので、
スピーカーの前で座ってじっくりジャケットを眺めがら
聴く環境っていうのがないんでしょうけど、
僕らの小さい頃なんていうのは
それをするしかなかったんです。

ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」というアルバムがあるんだけど、それは、あのジャケットのアートワークと、ジャケットに載っている歌詞っていうのと、そして音楽が全部一緒に自分の中に残っているの。


サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド
サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド


そういう感覚をもっと
今の人にも感じてもらえるといいなぁって。

斉藤 だから、ああいったアルバムになったのですね。

僕は、なるべくCDを買うようにしています。
歌詞やコンセプトなどが伝わってくる速度が違うんです。

植松 そうだと思う。

斉藤 イラストからもそうですが、
聴いてみて演劇に近い形でこの音楽を
観てみたいなというのもありました。

植松 ライブと絡めてやってみたいですよね。
この前の親族会議(※)では3曲だけですけど、
ロボットに踊ってもらったりなんかしたんですよ。

(※) この前の親族会議 … 2010年3月に開催された“Dog Ear Records presents 「犬耳家 親族会議vol.4」”。ドッグイヤー・レコーズにゆかりのあるアーティストを集めたライブイベント。vol.4では、ニコニコ生放送によるライブ中継放送も行われ、好評を博した。

斉藤 そうでしたね!

あと友人から聞いた話なのですが、
お子さんが生まれる方に、
「10ショート・ストーリーズ」をプレゼントしたそうです。

なんでもお母さんがハマって胎教クラシックの代わりに聴いているとかで、
あと、お子さんがいるところでは「それでいいんだよ(※)」をかけると、
子供が笑い出すと聞きました。

(※) それでいいんだよ … 「10ショート・ストーリーズ」の5曲目に収録されている楽曲。

植松 ありがたいですね。
そうやって大切に聴いてもらえるのが僕の本望。

レコードをかけて針を落とすと、
振動で針が飛んでしまうからレコードが傷つくでしょ。
だからジーッとしているしかないわけ。

動いたりしてもいいけど、
今みたいにジョギングしながら気軽に聴けなかったわけ。

斉藤 えぇ。

植松 A面20分をジャケットを眺めながら静かに聴いて、
終わるとトイレにいったりお茶を入れたりして休憩をするんです。

それでまたB面をじぃっと聴く。
そういうのをくり返してきた人間にとっては、
音楽って聴くだけじゃないのよ。

わかってもらえるかな。

斉藤 小学校の時にレコード盤を
音楽の先生が見せてくれた時があったのですが、
こう手ではさむように見せてくれたんです。

そしたらストンと落ちて割れてしまって。


(一同、ウワァという表情)


その時の先生のなんともいえない表情を見て、
本当に大切なものだったんだなぁと思ったことをよく覚えています。

植松 その先生はショックだったと思うよ。

アルバムの値段って2,000円か3,000円とかそこらで、
僕らの頃でも同じ値段。
当時と物価が違うから、今より随分高いものだったんです。

あと、さっき言ったように静かにしていないと針が飛ぶでしょう?
落としたらキズがついて“プチプチ”という音が出てしまうから、
ものすごく丁寧に扱うんです。

斉藤 音楽の扱いが今とは全然違いますね。

植松 キズがどこについているかによって、
自分のLPか他人のLPかわかるんですよ。

「僕のはこの歌詞のココで……ほら!」

ってプチッと音がしたり、歌詞が飛んでしまったり。
他人のLPではまた箇所が違う、だから自分だけの1枚なんだよね。


写真

斉藤 今では、中々ない感覚ですね。

植松 今は、デジタルデータで、壊れないものを聴いているからね。

だから僕はダウンロードより、せめてCDがいいなあ。

形があるから壊れる、
壊れるから大切にする、
大切にするから愛着がわく、
愛着がわくから思い出にのこるっていう、ね。